ベルギーのフリッツ

フライド・ポテトはただの添え物?いえいえ、ベルギーでの「揚げポテト」は主役であり、情熱をもって愛されています。ベルギー上陸の前に必読の、奥深いフリッツ文化を紹介。

マヨネーズがデフォルト!

日本からベルギーに来ると、まず奇異に感じられるのが、ベルギー人が「フライド・ポテトをマヨネーズで食べる」こと。

え、マヨネーズ? ポテト・サラダなら分かるけど・・・? もちろんこれが自然な反応だ。日本ではケチャップが普通だし、ヨーロッパの近隣諸国でもマヨネーズ派はかなり少ない。

しかし、恐る恐る試してみると「案外いけるじゃないか」となり、何度か食べ慣れてくると「マヨしか愛せない!」となる。その頃にはフライド・ポテトではなくて、フリッツと名称も正式なものが口をついて出てくるはずだ。

フリッツは国民食

ベルギーではどんな食事にでもフリッツは必ずついてくると言っても過言ではない。バーでビールのつまみに注文したり、街角のフリッツコット(揚げ物小屋 Fritkot)で買ったり、家庭でもよく料理される。スーパーには種類豊富なジャガイモがあり、冷凍パックも便利で人気だ。家庭ではよくフリッツ揚げ器なる装置が使われる。日本の炊飯器のような存在だろうか。

注文の仕方

観光などではじめてベルギーを訪れる方のために説明しておく。注文は非常に簡単。フリッツ屋さんではサイズとソースの種類を選ぶだけ。別に難しいことはまったくない。

ソースはマヨネーズが基本だが、それに抵抗があればケチャップもOK。どこでも常備している。または、日本では耳慣れないソースにチャレンジするのも楽しい。

サムライ・ソース
フランス語の綴りでSamouraï。醤油味でもワサビ味でもない。ちょっぴりピリリとしたソース。マヨネーズをベースに、パプリカや唐辛子が少量入っている。日本とはまったく関係ないが、日本人なら一度は注文してみたい。

ピリピリ・ソース
サムライより、さらに攻撃的なソース。Pili-Piliと綴る。日本の激辛フードに比べれば大したことない。というのも、ベルギー人は辛い食べ物が苦手だから。

アンダルーズ
Andalouseは非常に食べやすく人気のソース。トマト・ピューレ、マヨネーズをベースに、少量のマスダードやスパイスが入っている。

その他、カレー味、中華風、コショウ風味などなど、実は専門店では20種類以上のソースが用意されている。気になるものを片っ端から試すのも楽しい。

例:ブリュッセルの有名店メゾン・アントワーヌのメニュー

2度揚げで外はカリッと中はフワッと

ベルギーのフリッツの調理法としては、2度揚げが鉄則である。

・最初に130から140度くらいの低い温度で6分。

・取り出して10分休憩。

・2度目は油の温度を170度くらいに上げて2分ほど。外側が黄金色にこんがり美味しそうになったら完成。

専門店では植物性の油ではなくて、牛脂が使われることもある。

 

ユネスコ世界遺産に登録?

フリッツをベルギーが世界に誇る「文化遺産」としてユネスコ世界遺産に登録しようという運動がある。

ベルギー全土で5000以上もフリッツ小屋があり、2度揚げして外はカリッと中はフワッと仕上げる料理法など、食文化の遺産であるというのだ。

あまりにも庶民的なものを、おおげさにワールド・ヘリテイジにするという必要性はあまり感じられないが、同じく大衆の消費物であるビールは見事殿堂入りしている。(ベルギービールは、2016年11月30日に文化遺産として登録決定)日本では和食が無形文化遺産に登録され、日本酒も期待が持たれている。

洋の東西で対比させるのは難しいが、興味深い。フリッツを日本で言えば、天ぷらというのは大げさか。ストリートフードの部類だと、たこ焼き、たい焼き、おにぎりくらいの地位だろう。「たこ焼きがユネスコ世界遺産になりました!」は、なるほどメデタイが、ユネスコのブランドが卑近になりすぎやしないか。

アクリルアミド

ベルギーのフリッツ最大の危機は「2度揚げ厳禁」を強制されそうになった欧州委員会アクリルアミド事件だった。

前述のように、ベルギーのポテトは低温でじっくり、高温でカリッと2度揚げすることで独自の風味を実現している。

しかし、WHOの外部組織である国際がん研究機関(IARC)は、高温の油で揚げる食品には、発がん性物質であるアクリルアミドが含まれるとして、この十数年来、注意を促してきた。

最近になって欧州委員会が揚げ物についてのより厳しい規制を検討する動きを見せたところ、フランダースの文化大臣ベン・ウェイツ氏はコミッショナーへの書簡で「我々の豊かな食文化遺産に重大な影響を及ぼしかねない。規制に関しては慎重な対応をお願いしたい」とメッセージを発信。なんとか禁止を免れた。

ジャガイモが食用になるのは18世紀末

もともと、ジャガイモ自体は南米アンデスが原産。15世紀末のコロンブスによる新大陸「発見」の後、16世紀にスペイン人らによりヨーロッパに持ち帰られた。しかし、土地の貧弱なアイルランド以外のヨーロッパでは、芽に毒性があるとして18世紀末までは一般的な食料にされることが少なかった。

フリッツの起源

ベルギーがフリッツ発祥の国であると、ベルギー人は主張している。しかし、ベルギー人がよくフリッツを食べるからといって、フリッツ発祥の国かどうか、明らかな証拠はあるのか?と言われると、正直ちょっと心もとない。

根拠とされている文章がこれだ。

ナミュール、アルデンヌ、ディナンの住民らはムーズ川で雑魚を釣って、栄養の足しにするためにそれを揚げて食べる習慣がある。特に貧しい者たちだ。しかし、川の表面が凍ってしまい、釣りが困難になると、その住民たちはジャガイモを小魚の形に切り抜いて、同じように油で揚げる。私が覚えている限り、この習慣は100年以上も前にさかのぼる」。

文章には1781年の日付がついていたので、ワロンの貧民は1680年くらいから小魚型のフリッツを食べていたことになる。

出典はジャーナリストで歴史家のジョー・ジェラール(Jo Gérard 1919-2006)で、彼の祖父が書き残したものだという。肝心のオリジナル文献は現存しない。

フレンチ・フライは戦時中の誤解から?

フリッツはベルギー発祥の料理である(かもしれない)が、アメリカではフリッツのことを「フレンチ・フライ」と呼ぶ。一説には、これは第一次世界大戦中に誤解から生じた。

ドイツ軍と戦うため、アメリカ軍の兵士がベルギーに上陸した際、食事にはジャガイモを油で揚げたものが毎回出てくる。これは、フィッシュ&チップスが大好きなイギリス人兵士に出して評判上々だったものを、同じ英語話者のアメリカ人にも出したという裏話がある。

アメリカ人は、土地の言葉がフランス語なので「ここはフランスなんだよね。じゃあ、これをフレンチ・ポテトと名付けよう」としたとか。

だいぶアメリカ人を馬鹿にした話で、そこまで兵士の地理能力が低かったかどうかは疑問だが、ベルギーの隣国フランスでも人気の料理なんだろうと、アメリカ人が勝手に思い込んだ可能性はある。

こうして、小国ベルギーに対する配慮がなされることなく、フレンチ・フライが定着してしまった・・・というお話。

フリッツ博物館

ブリュージュにフリッツ博物館がある。ベルギーが誇る奥深いフリッツの過去、現在、未来を見つめるひとときをお求めの方はぜひ。

フリッツ博物館 Friet Museum
Vlamingstraat 33,
8000 Brugge

 

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