現代ベルギー小説アンソロジー『フランダースの声』

京都の松籟社さんから「フランダースの声」とシリーズ名を題して現在3冊、フランダース出身の作家の小説が日本語訳で出ている。それとは別に、『フランダースの声』という短編集がある。ローザスの池田扶美代さんが巻頭を飾り、ベルギーの日常と非日常が混交する短編が5つ収められた。内容を簡単に紹介したい。

「グループでスキップ」 アンネリース・ヴェルベーケ (井内千紗・訳)

大人になるとスキップをやめてしまう。そんな小さな発見から発展する小さなドラマである。

ステーヴェンは3カ月前から偶然見つけたチラシの「スキップ講座」に通いはじめ、スキップが与えてくれる喜びを共有する仲間と週に3回も活動に参加している。妻とは別れて13歳の娘が週末に訪ねてくる生活のなかで、グループ活動の喜びや失望を味わう中年男の物語が描かれている。

マラソンでもなく、ヨガや他のスポーツでもなく、スキップという奇妙な競技(?)に熱中するいい大人たちの明るさと、現実の人生の薄暗さの対比によって、フランダースの暗さが浮き彫りにされている。

 

「一発の銃弾」 アンネ・プロヴォオースト (板屋嘉代子・訳)

戦争と子供の物語。ランコという男の子が、母親のミルサダ夫人と一緒に、戦禍から逃れている。語り手の女の子はランコと同じ年頃で、二人は銃撃戦をやり過ごす時間にゲームをして遊ぶ。

ランコとその母親の関係はぎこちない。タイトルの一発の銃弾は、彼ら親子関係を破壊した事件を象徴する。語り手の女の子の視点から、親子の壊れた関係が描かれる。

 

「茂みの中の家」 ヒューホ・クラウス (三田順・訳)

フランダースの村社会とそこから外れた家庭。語り手の少女レーナの祖父が亡くなったが、葬儀はおろか遺体を運ぶことすらできない。父は船乗りで不在。母はふしだらな女でたくさんの男が出入りしている。そのためにレーナの家は忌避され、遺体の引き取り手がいないのだ。

村社会、学校、教会、宗教、性、死。そんなテーマで織りなす短編。「一つ目」を描いた絵、というものが作中に登場するが、あまり説明がないわりには印象に残る。全能の神がすべて見ているという意味だろうか。宗教道徳的には罪と穢れに満ちた家の住人たちを、「目」はどのように見ているのか。

 

「完全殺人(スリラー)」 トム・ラノワ (鈴木民子・訳)

著者はゲイ作家。ある殺人者の独白を録音したテープにより物語が語られる。

「犯人」は52歳の裕福な男性。「被害者」は若い男性で名前はマルク。彼らは同性愛の恋人同士として1年間を共に暮らす。テープに残された内容は、ほとんどが愛の想い出である。ダイアモンドのディーラーとして得たお金を湯水の如く消費していく。

アントワープのゲイ生活が垣間みられて、読んでいて楽しい。そして、この物語が奇妙なのが、愛人マルクの肉体が日々別人のように変化していくところ。非現実的な展開がお洒落にまとめられている。

 

「正真正銘の男」 クリストフ・ヴェーケマン (鈴木義孝・訳)

プレーボーイの主人公の男が、レベッカという美しい脚をした女性を自宅に招き入れるところから物語は始まる。しかし、3年間同棲していたサラが忘れられず、レベッカを口説こうとしている間にも、昔のことを思い出してしまい集中できないでいる。

言い争いが絶えず、問題の多いサラとの関係。しかし、失われてしまった愛の大きさに男は過去を乗り越えられずにいる。軽いタッチの心象風景。

 

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もちろん、これだけでフランダースがすべて理解できるとは言わないが、ベルギーそしてフランダースを経験によって知っている読者にとっては、その風景や心理に見覚えがあるというか、匂いのように伝わってくるものがあると思う。

個人的に短編を読んで気に入ったらその作家の別の作品も読んでみる、ということがよくあるので、こういったアンソロジー企画は大歓迎である。日本にある文化協会、フランダースセンターの翻訳セミナーから生まれたという。この本は残念ながら非売品で比較的に入手は困難。私はベルギーで友人に貸してもらった。若干中古で出回っているようなので、ご興味のある方はお早めにどうぞ。

 

『フランダースの声』
2013年11月30日 松籟社(京都) 128ページ
巻頭エッセイ 不思議にも釣り合った何か 池田扶美代
まえがき ベルナルド・カトリッセ、ニコ・ネーフス

リンク
現代ベルギー小説アンソロジー「フランダースの声」刊行
http://www.flanders.jp/2014/02/Flanders-ShortStories.html

アマゾン(中古)
https://www.amazon.co.jp

松籟社サイト「フランダースの声」シリーズ
http://shoraisha.com/main/category/flanders.html

 

 

written by 山本浩幸 14.dec.2018