【ミチルのひとりごと】ハロウィンの夜の、怖い出来事。

ハロウィンの日。私の元には本物のお化けがやってきた。

10月31日午後8時5分過ぎ。会社帰りの運転途中、赤信号で止まっている時に、突然右側の助手席から変な音がする。

え?と思って、横を見ると、その瞬間、フードをかぶった小柄な若い男が私の車の助手席の窓ガラスを打ち破り、シートに置いてあったカバンをひったくって、逃げ去った。ほんの数秒の間の出来事だった。

前を見ると、信号が青に変わっている。頭の中が真っ白になり、とりあえず車を発進させたが、木枯らしが吹く寒くて暗い夜、このまま窓ガラスがないまま、走っていいのだろうか?と少し考えて、少し進んで路肩に駐車し、自分自身を落ち着かせることにした。

今、この状態で私は何をしなければいけないのだろうか? 今起こった出来事が理解できず、しばらく放心状態でいると、私の車の前に、すうっと、別の車が止まり、男女のカップルが降りて、私のところにやってきた。

あなた、大丈夫?私たち、後ろから、見たの。あなたの車の窓を破って、男があなたのカバンを持って逃げるのを。すぐに警察に電話しなくちゃ!

彼らは、私の代わりに警察に電話をして、状況を説明してくれて、そして警察が本当にやってくるまで、一緒に待ってくれていた。

私もね、実は同じ目に以前あったことがあるの。酷いわね。怖かったでしょう? 怪我はなかった? でもあなた偉いわね。私なんて、泣きじゃくるばかりで、あなたみたいに落ち着いていられなかったわ」。

落ち着いていたわけではない。あまりに突然のことで、頭が働かず、固まっていただけである。

20分もしただろうか。ようやく警察がやってきてくれたが、犯人はあちらに逃げたと伝えると、すぐに「追ってくるから、ここで待っているように」と言っただけで、またいなくなった。

助けてくれたカップルも次の予定があるようで、当然ずっと私に付き合っているわけにはいかない。男性の方は、彼女をこの暗くて人通りのないところに、一人にしておけないだろう、また警察が戻ってくるまで待っていてあげようと言ってくれていたが、女性の方は予定が気になるらしく、私たちがいても、もうできることはないわ、と早くその場を立ち去りたい気配が感じられた。

もちろん、私は大丈夫だからと伝え、でも目撃者として名前と電話番号だけ教えてもらって、彼らとは別れた。

しかし、一人になってからも、警察はなかなかやってこない。車の中にいても、窓ガラスがないので寒い。外は真っ暗で恐ろしい。今、起こったことを考えると、警察との約束を破ってでも、一刻もその場を離れたい、そんな気分でいた。

ようやく半刻もたった頃、別の警察官たちがやってきた。簡単な現場での事情聴取の後、近くの警察で報告書を作成するということになり、警察の車の後について、近くの派出所に。

そこは、4、5人の警察官らしき人たちがすでにいたのだが、彼らは暇をしているのか、私が調書を取っている時に、隣の部屋からゲラゲラと笑い声がした。自分の今置かれている状況とかけ離れた笑い声に、苛立ちを覚えずにはいられなかった。

盗まれたカバンの中には、こまごました色々なものが入っていたのだが、すぐにそれを全て列挙するようにと言われても、なぜか全く思い出せない。

私の調書を取ってくれた警察官は、まだ20代だろう、若くてとても美しい小柄な女性だった。仕事柄か、外股で大きく歩き、全く笑顔を見せず、感情が読み取れない女性だったが、きっと優しい娘なのだろう、ガラスの破片が飛び散った運転席を危険だから、少し片付けたいのだがと伝えると、手袋をはめて、一生懸命彼女自身が綺麗にしてくれた。

それにしても、犯人の着ていた服の色や、顔が全く思い出せないのである。目撃者のカップルは、ボルドー色のトレーナーの上下だった、と言っていたが、私には確証が持てない。フードの奥の顔は、真っ暗で見えなかったが、だから黒人だったのかと言われると、それも怪しい。

ただ、犯人が大きめのバッグを胸に大事そうに両手で抱えて、あっという間に走って逃げ去った姿だけが、くっきりと印象に残っている。そして本当に不思議なことに、犯人に対して怒りが湧くというより、憐れみと悲しみの感情の方が強いのだ。

彼が持って逃げたバッグには、私にはとても重要なものばかりが詰まっていたのだが、現金や金目のものは、ほとんど入っておらず、おそらく彼にとっては、あれほどの労力とリスクに見合わない、非常に価値の低いものだったと思われる。

盗んだバッグを大事そうに胸に抱えて走り逃げた姿からは、経済的にきっと恵まれない人なのだろうと哀れみの感情を誘いすらすれ、どうしても怒る気になれないのである。

誰だって、好きで盗みをする人はいない。そうでもしないと生きていけない彼の身の上を思い巡らすと、きゅっと切なくなる。

それにしても、こういうことが自分の身の上に起こると、精神的にとても凹む。被害者なのだから、自分は全く悪くないはずなのに、どうしても、自分に落ち度がなかったか、自分を責めてしまいがちである。

最近、気が緩んでいたのかもしれないとか、なぜ私がターゲットに選ばれたのだろうとか、つらつら考えてしまう。

それでもモノで済んで良かったと考えなければいけない。命を取られたわけではないのだから、不幸中の幸いとして、ポジティブに捉えよう。

長く欧州に住んでいると、慣れもあって注意を怠りがちだ。ここは安全な日本ではない。

苦いハロウィンの夜だった。

 

1.nov.2017 by Mytyl

 

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