【語源クイズ】ワロン地方とクジラの関連性は何?

読者の皆さんは、語源はお好きだろうか? 言葉の解剖学、地質学のようで、なかなか面白いですよね。一つの語源ネタで、ビール2杯は美味しく呑める。今日の問題はこれ。

「ベルギー南部のワロン地方と、クジラの語源における関連性は何か?」3分以内に答えられたら、そのお方はかなりマニアックな実力者だ。

このままだと難しすぎるので、ヒントをひとつ。

ワロンはフランス語でWallonieと書く。しかし、もともとこれはフランス語ではない。そもそもフランス語にWは存在しない・・・こともないけれど、外来語を書き表すためにあるだけだ。(Kも同様)

実は、ワロンの語源は、オランダ語(ゲルマン系)の言葉から来ている。そこで、比較対照のクジラは仏語だとBaleineだが、それはとりあえず横に置いて、ゲルマン系の言葉で考えてみよう。英語だとホエールですね。

【ワロン】
Wallonie(仏:ワロン地方/名詞)
wallon, ne(仏:ワロン地方の/形容詞)
Wallonië (蘭:ワロン地方/名詞)
Waal(蘭:ワロン人/名詞)
Waals(蘭:ワロン(人・語)の/形容詞)

【クジラ】
Whale(英:クジラ/名詞)
Walfisch(独:クジラ/名詞)
Walvis(蘭:クジラ/名詞)

そう、頭の部分にWALがついている。どれもワルだってこと。

「越後屋、おぬしもワルよの〜」「いえいえ、お代官様こそ・・・ほほほ」と時代劇風に・・・。(最近、こんなシーンやってないか!?)

とりえず、関連性の糸口が分かった時点で60点。でも、これだけじゃ、意味がどうつながっているのか、分からない・・・。

 

ワルの語源は?

さらに古い地層まで掘り下げてみましょう!

中世の古いオランダ語では、フランス語をwalsと呼んでいました。このワルスという言葉には慣れていない、親しくない、他国の」という意味がありました。ゲルマン系である自分たちの話すDiets(民衆の言葉)とは異質なものという考えをしていたわけです。

つまり、ワルの国、ワロニエ、、、ワロン地方は、「異質な言葉を話す人の国」という意味があったのです。

 

クジラは「変な魚?」

さて、クジラにも注目してみましょう。ドイツ語のfischオランダ語のvisは、どう考えても英語のfishと同じ言葉つまり「魚」です。(クジラは哺乳類だから魚じゃない、という分類学的なツッコミはご遠慮ください)

なるほど、クジラは自分たちが普段食べ慣れているニシンのような魚とは違う。巨大で、味もまったく違うし、そもそも、滅多なことではお目にかかれない「異国の海を泳いでいる変わった魚」という名前で呼んだのですね。

ワルな魚、ワル+フィッシュ=Whale (fish), Walfisch, Walvisってことで。よろしいでしょうか? 雑な説明でスミマセン。

とにかく、ワロン地方とクジラが「ワル」でつながりました。

 

変わった木の実? ワロンとウェールズは同じ語源?

この古いオランダ語(ゲルマン系)の「ワル=異国の、変な」という言葉の意味は、現在使われている他の言葉にも生きています。

【例】
ウォールナッツ:walnut(英)、walnoot(蘭)、walnüsse(独)
ウェールズ地方:Wales(英/名詞)、Welsh(英/形容詞)
コーンウォール地方:Cornwall(英/名詞)

ウォールナッツは日本語で胡桃(クルミ)のことですね。硬い殻に覆われていて、中身は脳みたいにウネウネとした形の木の実です。たしかにミックス・ナッツの袋を買ってくると、クルミだけかなり特殊というか、特徴的です。(私はけっこう好きな味)

また、ウェールズ地方はベルギーのワロン地方と同じような名称の成立がされたようです。普段はこんなこと意識しないから、知るとビックリするんじゃないですかね?

 

ここから、さらにワルの源流を辿れば・・・

語源ウンチクは、まだ終わりじゃありませんよ〜。2杯目のビールとミックスナッツをご用意ください。鯨ジャーキーでも結構です。

実は、このワル、ワルス、ワールス、ウェルス、ウェルシュというゲルマン系の言葉ですが、そのさらに語源を探ると、どうもラテン語らしいのです。

古代ローマ帝国の礎を築いた神君カエサルの『ガリア戦記』にも登場するウォルカエ族(Volcae)が、その源流のようです。

ウォルカエ族はケルト系で、ローマ人やギリシア人など文明先進民族から見ると、ザ・蛮族です。当然、風変わりな格好をし、風変わりな風習を持ち、風変わりな言葉を話していたことでしょう。

覇者ローマにおいて、「我ら」vs「彼ら」という対立軸で考えると、ウォルカエは思いっきり他者「彼ら」であり「異質、異国、異形」のものです。「あれってウォルカエだよね〜」という表現が「見慣れない変わったものだね」ということを意味したのです。

欧州大陸に住んでいたウォルカエ族はローマ人をはじめとする他の強い部族に追われて、北へ西へと民族移動していったと考えられています。(ウォルカエ族までさかのぼって説明できたら、本当に語源博士ですね。100点)

というわけで、紀元前の遠い昔、ラテン語で「ウォルカエ風の」=「変な異国の」という意味で使われていき、それがゲルマン系言語に継承され、ゲルマン人がロマンス系語族を「異国の言葉をしゃべる変な奴ら」と形容するのに使い、、、、

今日現在、ベルギーの南半分の地方名(ワロン)や、クジラ、ウォールナッツその他に至る言葉に残った。21世紀まで爪痕を残している、というわけです。

 

ワロン人=ケルト人?

閑話休題、ドイツ語の辞書(三省堂クラウン)のWalloneの項目を見ると、「ワロン人(ベルギー南東部に住むケルト系住民)」と堂々と書いています。確かにケルト系の巨石遺跡なんかはありますけど、今日のワロン人のアイデンティティー意識ってどうなんでしょうね?(多少疑問・・・普通に自分たちはフランス系と思っていませんかね?)機会があったらワロンの当事者に質問してみたいです。

地続きのヨーロッパ大陸ならではの言葉のリレー。歴史ロマンですね〜。

 

7.dec.2018 within by Tyltyl