ユダヤ人差別か? 表現の自由か? アールストのカーニバル

ユダヤ人差別か? 表現の自由か? アールストのカーニバル

アールスト(Aalst)のカーニバルが、2020年も開催された。ユネスコの無形文化遺産にも登録されていた伝統の祭りだが、厳格なユダヤ教徒を揶揄したコスチュームと山車が、ユダヤ人社会からの非難を受け、12月にユネスコの登録を削除されていた。(上の写真は2019版)

2月23日に開催されたパレードで、やはりユダヤ人やナチスをテーマにした衣装が登場し、またしても賛否両論が巻き起こっている。

 

アールストのカーニバルとは?

アールストはベルギーの首都ブリュッセルから西に約30キロに位置する街である。ここで行われるカーニバルは、600年の歴史を持ち、運営委員会は100年続いている地域伝統のお祭りである。2010年にユネスコの無形文化遺産の指定を受けた。5000人ほどの参加者がパレードを盛り上げ、8万人の観客が押し寄せる。

大がかりな山車、色とりどりの衣装に、女装の男性など、妙な出し物で有名である。

そして、時事ネタを扱ったきわどいネタも特徴の一つである。

 

市長のメッセージ

ここのパレードでは権力者たちが、からかわれます。地元の、ベルギーの、そしてインターナショナルな政治家は特に対象になります。しかしながら、この街で見られる「からかい」が、その技術やデリカシーで表彰されるようなものではないことは、私にもよく分かっています。

全世界がアールストのカーニバルにご意見をお持ちのようですが、実際に経験してもいないで言っているだけでしょう。ユダヤ人差別だとか人種差別だとか、非難するメディアもあります。我々のフェスティバルが、国際政治のレベルで利用されているのです。これだけは、はっきりさせておきますが、カーニバル参加者はだれもユダヤ人を差別しておりませんし、人種差別主義者でもありません。まったく逆なのです! アールストのカーニバルは、表現の自由の祭りなのです。

 

2020年の盛り上がり

ときに秀逸な諧謔、ときに単なる悪趣味・・・。

2020年もまた、ユダヤ人が登場したが、昆虫のアリの姿であった。その心は、反ユダヤ主義(Anti-Semitism)の頭のANTをとったらしい。また、ユダヤ人がナチスに虫けらのように扱われていたという戦中のイメージも重なる。

EU離脱のイギリスをテーマにした山車。細かい小道具まで入念な配慮がなされているが、政治的なデリカシーはない。

ベルギー南部のバンシュのカーニバルからも影響を受けている。

 

2019年の写真

アールストのカーニバルは、悪趣味な女装で有名。

北朝鮮キム・ジョンウンと米トランプ大統領。核ミサイル問題もタブーではない。

2019年に問題になった「ユダヤ人」の扮装。ユネスコの世界遺産より、自由な笑いを尊ぶアールストの市民。

ジレ・ジョーヌ「黄色いベスト運動」も、彼らにかかれば黄色いカミソリ(ジレット)になる。

 

無差別なジョーク化は、どこまで許されるか

2005年には、イスラム教徒の自爆テロリストの衣装で、モスクを模した山車が登場。

2013年には、強制収容所送りのユダヤ人を載せた列車と、そのまわりをとりかこむナチスの士官たち。

毎年のように、内外の政治家たちがアールスト流の風刺対象となっている。

フランスの風刺漫画紙シャルリー・エブドのように、権力者やステレオタイプを風刺することで、人々に笑いをもたらし、かつ問題提起を促すのがこうした扮装の目的だといえる。

しかし、田舎の村祭りにしては、かなり派手に楽しんでいるため、アラブ連盟や、イスラエル政府の目にとまって、おしかりを受ける結果となった。

風刺はするが、差別ではなく、だれも傷つけないとアールストは主張している。相手のあることなので、許容できるかどうか、その判断はむずかしい。

アールストの独自文化を、国際社会が理解して容認するまで、もう少し時間がかかるのかもしれない。そして、カーニバルは続く。

 

24.feb.2020

PHOTO : Stad Aalst

Hiroyuki YamamotoReporter
ブリュッセル在住。青い鳥編集長。ベルギーの政治経済ニュースを現地から発信。多文化国家にして欧州の中心という特殊な状況を読み解き伝える。

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