FIFAランキング3位のベルギーと61位の日本のトーナメントでの対戦。ベルギー国内のサポーターたちは「楽勝」ムード漂うなか、運命の笛が鳴らされた・・・。
キックオフから前半の序盤は日本のペースで進む。ベルギー相手に互角の試合展開と言え、丁寧なディフェンスで相手のチャンスも決定的なかたちにまではもっていかせない。
後半48分、柴崎から左バックのフェルトンゲンの裏をつくボールが原口に通る。軽くフェイントを入れて放ったシュートがゴール左隅に突き刺さり、日本先制。
日本の2点目もすぐにやってきた。香川がキープしたボールが乾に渡り、ペナルティーエリア外からミドルシュート。タイミングをうまく外され、世界最高のキーパー・クルトワも届かない絶妙のコースに飛びゴール。後半52分だった。
「楽勝」「最弱」のはずの日本に2対0とされた優勝候補ベルギーの顔色が完全に変わった。ライブ観戦しているサポーターは深く重い沈黙に包まれた。G組でイングランドを倒し第1位で通過したベルギーに対し、ポーランドに負けてH組第2位通過した「他力ジャパン」と自虐気味の日本。そんなムードのなかスタートした試合は、2018年ロシア大会の「サプライズ」連鎖を象徴するような下克上の様相を呈してきた。
しかし、ベルギーは諦めなかった。
後半65分、メルテンスとフェライニが交代。そしてカラスコに変えてシャドリが登場。
フェライニは長身でヘディングが強い。日本はルカクに加えて2人目の巨人アタッカーに対応を迫られることになる。また、シャドリは2017年の練習試合で日本のディフェンダーをかわして決定的なアシストをルカクに送った選手だ。一瞬のスピードが素晴らしい。
この交代の効果が思わぬところで出てくる。左バックのフェルトンゲンがセンタリングのつもりでヘディングしたボールが、キーパー川島の頭上を越え、そのままゴールする。「ラッキーだった。あの状況では、こういう運が必要だった」とフェルトンゲンは振り返っている。W杯史上で最長距離のヘディング・シュートという記録も生まれた。(18メートル60センチ)
このラッキーな1点でベルギーは生気を吹き返した。
74分、アザールが左からクロス気味にセンタリング。長身アフロのフェライニにぴたりと渡り、ヘディングでゴール。吉田がマークについていたが、勢いを止めることはできなかった。
81分、柴崎と山口が交代、原口と本田が交代する。
本田のキープ力はベルギー相手にも健在だが、周囲との素早い連携はなく、試合をスローな展開に持って行くにはいいが、その判断は20〜30分遅かったと言える。
ロスタイム突入の94分、日本のコーナーキックをキャッチで防いだクルトワからデブライネにボールが渡ると、ムニエからのセンタリングがルカクのスルーパスで左を駆け上がった交代要員シャドリへ。10秒弱の速攻カウンターアタックで、ベルギーが3対2で勝ち越し。残された時間はあまりに少なく、そのまま試合終了となった。
試合後の西野監督の記者会見
21分から田辺記者の質問に、西野氏は正確に答えきれていない。結局、攻撃や守備の細かなクウォリティーの向上については述べているが、つかんだチャンスを活かして時間を上手く消費し、勝ちきる試合運びができない稚拙さが日本サッカー界全体の課題だということだ。
高さ対策という意味では、空中戦で世界に対応できる長身のプレイヤーが日本にはかろうじて吉田1人しかいないという単純な事実を直視する必要がある。長期的な始点で、日本サッカー界は長身の選手を育成しなければならない。
個々の選手の実力は、90年代に比べると、確実に世界レベルになっている。あとは試合運びの問題か。2対0をひっくり返されたゲームはW杯の歴史でも数少ない。「3点目を取りに行く」のではなくて、攻めるにしても守るにしても、時間を消費させ、相手を翻弄し、最後に勝つサッカーに徹することはできなかったのか? 南米のようなずる賢さを日本は会得できないのか? そんな疑問の残る日本の試合だった。