N-VA党が連立政権を離脱。それまで複数政党の連立によって議席の過半数を維持してきたミシェル首相の政権は「過半数割れ」を起こし、全議席の3分の1しか確保できていない。全150議席中52議席という「小さな連立与党」に対して、大きな野党が不信任をつきつけるのか? ベルギーの政治は2019年5月の選挙に向けて揺らいでいる。
マラケシュで開かれた国連の移民協定会議に参加したベルギー首相シャルル・ミシェル氏は、帰国後すぐに新大臣の任命と政権維持の仕事に取りかかることになった。
N-VA党が政府から出て行った理由がまさにこの国連移民協定。ブレグジットでも移民の受け入れ問題がEU離脱の引き金になったが、ベルギーでも政治不安を招いたことになる。N-VA党は議会で最多の33議席を有する「第一党」であるがゆえに、その衝撃は大きい。
残されたのはミシェル首相のリベラル政党MR(仏語)、同じくリベラル政党Open Vld(蘭語)、そしてキリスト教政党CD&V(蘭語)である。合計で52議席。(中央のブルー濃&淡と、右から2番めの明るめのオレンジが縮小政府)
過半数以上76には24議席も足りない。
議席3分の1で「少数政権」状態
N-VA党が離脱したことで、まず5つの大臣級ポストが空席になった。ミシェル首相は間髪を入れずに新大臣を任命し、行政の「空白期間」を作らない選択をした。
しかし、下院議会の過半数の議席を確保した政党、もしくは連立与党が政府を樹立できるという大前提からすると、、、議会の3分の1しか占めない「小さな与党」が、そもそも政権を維持し続けることができるのか? 首相が大臣を任命する権利があるのか? 憲法違反ではないか? だれもがこの前例のない事態に混乱している。
信任? 不信任?
ベルギーでは、首相が「信任の動議」を議会にはかることが可能である。簡単にいうと「議会の過半数の信任を得られれば、それは自分の政策や政府が支持されているということですよね」という自発的な確認作業である。
今回のように、政権の構成が大幅に変わった、重大な問題で政府の方針が批判されているなど、首相が自らの立場を確立させたいときに使うカードだ。
一方で、議員が不信任案を提出することも可能である。首相などポストの次の後継者を指名してから不信任する「建設的な不信任案」と、後継者指名なしの「不信任案」がある。
不信任の動議は3分の1以上の議員らが集まれば提出でき、過半数を取れば採択される。これにより、首相、大臣の交代や政府総辞職による選挙が実施されることになる。
2019年5月の選挙をにらんで
しかし、前首相エリオ・ディルーポ(社会党PS)の「カオス状態にさらなる混乱を発生させる」という発言のように、選挙の前倒しで国政自体が揺らぐのは望ましくないと考える政治家が大半のようである。
どのみち、半年後の2019年5月に連邦選挙が予定されているのなら、このままミシェル政権を維持させるほうが現実的な展開と言えそうだ。憲法の精神に従って、首相は信任動議を出すべきであるという意見もあるものの、6カ月という残された時間を考えれば、その必要があるのか疑問に思われる。
次の連立交渉テーブルにN-VAは呼ばれない?
N-VAは、選挙6カ月前というタイミングで、「安易な移民受け入れには反対」の旗色を鮮明に打ち出して選挙キャンペーンを展開した。
お互いに票の喰い合いになる極右政党フラームス・ベラングの支持者を取り込むことが目的かもしれない。右派と極右の間の微妙なバランスをとって運転している印象である。
ただし、このタイミングで強行な政治判断を実行したからには、次の連邦政府の連立交渉のテーブルでは、各党から嫌われる可能性が大である。自党の都合で一方的に政権から離脱するような党とは連立を組みたくないだろう。
12.dec.2018
※「日本の衆議院」にあたるベルギーの連邦議会下院。その選挙制度は「比例代表制」のため、少数政党が乱立する傾向が強い。(参照:ベルギーの政治システムについて)
※※2010年の選挙では、連立交渉が長引いた結果、歴史的な535日間の無政府状態を記録。