「モーレンベークを車で通るとベルギーとは思えない」発言

「モーレンベークを車で通るとベルギーとは思えない」発言

フランダース地方の社会党Vooruitの若き党首コナー・ルソーの発言がベルギー政界に衝撃を与えた。

「車でモーレンベークを通過するとき、そこがベルギーとは思えないときもあります。ただ、多くがこの国で生まれた人々です。一番重要なのは彼らが我々の言葉を話し、仕事をしていることです。ブリュッセルでは教育が行き届かず、授業中に教室でアラビア語を話したりします。フランス語ができないからです。言語道断です。ではフランダース政府は何をしているのか? 待機リストの人数を減らすために、言語レッスンの授業料を高くしているのです」

 

社会党の票田に対するタブー発言

たしかに、この地区には中東やアフリカからの移民が多い。運河近くの商業地にはアラビア語の看板も多く見られ、異国の雰囲気もあるだろう。

ルソー発言は、同化政策の失敗を嘆き、言語教育の必要性を訴えているとも言えるが、「モーレンベークがベルギーではない」という言葉があまりにセンセーショナルで、政界や市民から、さらに身内の社会党の内部からも強い批難の声が巻き起こった。

それというのも、このモーレンベーク地区は伝統的に社会党の票田であるからだ。移民など社会的弱者に対する手厚い保護を特徴とする社会党の区長が1939年から代々政治基盤を築いてきた。現在の区長カトリーヌ・モローも、同じく社会党の区長だった父の地盤を継いだ二世議員だ。

2015年パリ、翌年ブリュッセルでのテロ事件の首謀者たちがモーレンベーク出身のイスラム過激主義者たちだった。移民社会のネガティブなイメージはそう簡単に消えるものではないのが現実のようだ。

 

ベルギー政界の地殻変動か?

ルソー発言の掲載雑誌Humoは、こうした政治家の「炎上発言」を紹介することも多く、メディア側が話題作りを狙った側面もある。一方でルソー党首が今後の党の戦略に沿って、意図的に用意した台詞なのではないかという、少々うがった見方も出ている。

フランダースでは右派のN-VAと、極右のVlaams Belangが議席数の多い政党である。有権者からの人気が高い「国民第一主義」に立ち位置を近づけることが選挙に有利に働くと期待しての今回のルソー発言だったかもしれない。

 

ベルギーの選挙、組閣事情

ベルギーでは中小規模の政党が多数乱立する。長い時間をかける連立交渉は記録として世界中で騒がれるほどだ。2010年は選挙後にディルーポ政権が発足したのが541日後のこと。その後のミシェル政権、ウィルメス政権も、長い交渉や過半数割れなどの難しい政権運営を余儀なくされた。

次の選挙は2024年。フランダース地方の5月の世論調査ではN-VAとVlaams Belangはそれぞれ22%を超えた。Vooruitは15,5%と健闘している。キリスト教政党CD&Vは8,7%と振るわず、議席減少の危機を迎えている。

© Conner Rouseau

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