ベルギー政治で最近ささやかれている重要な用語が「コルドン・サニテール」である。
フランス語Cordon Sanitaireは「衛生ロープ」を意味し、疫病の感染を防ぐために、人や物の通行を遮断するためのロープから着想を得て、極端な主張をする政治グループを、連立政権のなかに入れない暗黙の合意というニュアンスで使われて来た。
現在は、フラームス・ベラング(Vlaams Belang)というフランダースの極右政党が、2019年5月の選挙で18議席と勢力を拡大してきたので、コルドン・サニテールを守って彼らを排除するのか、それとも縛りを破って、一部の市民に人気の政党を取り込むのか、といった議論がなされている。
右派N-VAも真っ青の極右フラームス・ベラング
フランダースで最大政党のN-VAも、移民難民の受け入れには消極的で、南部のワロン地方とも離縁したい孤立主義の政党だ。しかし、N-VA党員にとっても「右派」と「極右」には、はっきりとした線引きがある。「人種差別」であるかどうかが、これら二つの党を分ける分岐点であると言える。
それでは、メディアとネットをお騒がせしているフラームス・ベラングの3トップをご紹介しよう。
フィリップ・ドゥウィンター(Filip Dewinter)
古都ブリュージュ出身のフランダース議会議員。政治新聞記者から政治家に転向し、ブロック時代から極右として活動。最近のツイッターがこれ。
このGo Back Busは、ブリュッセル北駅にも停車して、ダニ、マラリア、結核病の移民を、全員やってきた祖国に送り戻していきます。(註:写真向かって左がドゥウィンター氏)
Deze Go Back-bus stop wel aan #Brussel-noord en neemt alle schurft-, malaria- en tbc-migranten mee terug naar hun land van herkomst! pic.twitter.com/hmAeSeQkCt
— Filip Dewinter (@FDW_VB) May 5, 2019
ブリュッセル北駅は、不法滞在の難民やホームレスの寝床となっており、そこにGo Backと書かれた車を送り込むと豪語している。
ドリス・ファン・ランゲンホーヴェ(Dries Van Langenhove)
極右の若者を集めたフランダースの団体スヒルド&フリンデン(Schild & Vrienden)のリーダー(写真中央)で、2019年からベルギーの連邦議会の最年少議員。
爽やかな外見とは裏腹に、グループの内部に蔓延するファシズム、女性蔑視、反ユダヤ主義の内情を取材したレポタージュが放映され、それが逆に追い風となったのか、極右政党の候補者として擁立され当選した。
サム・ファン・ローイ(Sam Van Rooy)
フランダース議会の議員。ツイッターでは差別発言、悪口ばかりを書き連ねている。新作はこちら。
この「迷惑な若者たち」が自分の遊泳時間で分かれて泳げる「プール」を知っているぜ。地中海に行けばいいのさ。
Ik ken nog wel een 'zwembad' waar deze 'lastige jongeren' helemaal apart in hun 'eigen zwemtijd' mogen gaan zwemmen: de Middellandse Zee. ? https://t.co/wzooeS5kHA
— Sam van Rooy ? (@SamvanRooy1) 2019年7月4日
モロッコなどアフリカ系の若者が、プールで大騒ぎをしたり、他のスイマーに迷惑をかけていることから、祖国の海辺で泳げばいいという発言だった。しかし、欧州に渡ろうとして地中海で溺死した人々のことを連想させ、非常に挑発的な物言いである。
追放のリクエスト、そして交渉は続く・・・。
非人道的といえる思想や発言によって物議をかもすフラームス・ベラング議員たちに対して、他党からは常に批判がよせられ、政策的には隣人であるはずのN-VAからも、極端な議員は追放して、それから連立交渉すべしとのリクエストがなされる。
連邦議会の18議席は交渉の行方を左右するほど大きな数字である。コルドン・サニテールを守って、極右抜きの政権ができるのか、それとも極右も国民の声として受け入れるのか、いずれにしてもベルギーとヨーロッパの未来を決める重い選択が待ち受けている。