ブリュッセルをはじめとする都市部での感染拡大が認められるため、飲食店の閉店時間や、面会できる人数をより制限するなど、政府は緊急の対策を次々と打ち出している。
ベルギーは、またコロナで多くの死者を出し、ロックダウンしてしまうのか? 不安でパニックになりがちだが、ここで一端、もう少し冷静に状況を見つめ直してみよう。
状況を読み解く4つの指標とは?
つきつめて考えれば、コロナに感染することが問題なのではなく、死に至る重症化を招くことが問題である。後遺症もなく軽微な風邪で済む人も多い。
そういった意味で、感染→入院→重症化→死亡という4つの段階を示す数字に注目するのは当然のことだ。
ベルギーでは、公衆衛生研究所が、感染確認件数、新規入院数、集中治療室使用数、死者数を主な指標として常に明示したレポートを毎日発表している。
ベルギーでの感染は拡大傾向
9月29日から10月5日までの週における新型コロナウイルス感染の一日の平均件数が2915,9件で、その前の週に比べて72%も増加している。この記事が書かれている10月9日には一日5700件という記録的な数字も踊った。検査体制が拡張してきたので、単純比較はできないまでも、3〜4月の最初のピーク時よりも多い数値である。
向かって左のコブが春のピーク時の感染件数。現在、倍以上に増える勢い。
政府のスポークスマンである感染症学者イヴ・ヴァンラーテム氏は、「このリズムで拡大すると感染件数は9日ごとに倍々になる」と警告した。
基本的に都市部で感染が広がり、20代の感染件数が目立つが、それにつられるようにリスクの高い高齢者の数も増えているのが不安要素である。また、ここ最近はベルギーの南部であるワロン地方のほうが件数が増えている傾向が見られる。
感染件数と人数の違い
一方で、他国と同様ベルギーでも問題になっているのが、PCR検査の感度が高すぎるという特徴である。夏場にコロナ感染してすでに回復した人も、陽性件数としてカウントされてしまうという現象が見られる。WHOなど研究機関の研究では感染可能期間は2週間程度なので、例えば1ヶ月以上も前に発症したような人は、他人に感染させる危険性が低い。
ベルギー政府が発表している数字は「確認された件数」であり、「人数」ではない。したがって、二回以上、重複して「陽性」と診断された人の数も、それなりの割合で存在することを理解しておきたい。
感染が死に直結するわけではない以上、感染件数の数字だけに一喜一憂するのではなく、まず最初の指標として考えたい。
要注意の入院件数の上昇
ベルギーにおける新規入院者数の推移を俯瞰してみると、4月はじめに毎日500人を超えるピークを迎え、5月終わりにはかなり数字が低くなった。夏はそのまま小康状態が続いたものの、9〜10月の新年度再開から徐々に入院患者が増え出している。10月9日現在、毎日平均100人前後が入院している。
新規入院患者数の推移。春に比べれば穏やかな上昇だが、油断はできない。
ブリュッセルのいくつかの病院ではコロナ患者の増加によって、医療現場が逼迫する場面も見られるようである。ただ、全体としてはまだ余裕がある状態であり、春のピーク時に比べれば数が少なく、受け入れ体制や治療の方法論も確立されているため、国全体としては今のところは対応可能な範囲である。
集中治療室の重症患者数も増加
10月8日の数字では、1110人が入院しており、213人が集中治療室の患者である。感染者が増えれば、当然のことながらある一定の割合で入院患者も増える。
集中治療室の患者数の推移。1000以上になると、医療体制に深刻な負担となる。
春のピークよりも増加率が低く抑えられている理由は謎のままだが、油断はできない。この傾向が続けば、結果として重症化と死亡が増えるのは当然の帰結である。
1万人を超えたベルギーの死者
現在、ベルギーのコロナ関連死者は1万人を超えた。最新の数は10108人である。
死者数の推移。春のピークが250の線を超えているのが見える。
ジョン・ホプキンス大学の統計データ(LINK)によると、ベルギーの人口10万人あたりの死者数は89人で、依然として世界でもコロナ死亡率のもっとも高い国でありつづけている。
主な近隣国との比較をすると、スペイン(70人)、イタリア(60人)、英国(64人)、スウェーデン(58人)、フランス(49人)、オランダ(38人)、ルクセンブルク(21人)、ドイツ(12人)。
なぜベルギーの死亡率が高いのか、周辺国より突出している理由に関しては、こちらの記事(LINK)を参照。
1日の死者数が250人を超えていた春のピーク時に比べれば、現在は12人程度であるが、これから徐々に増えるのは必至である。
そういった意味で、死者を増やさないためには感染件数という最初の分母をいかに抑え込むことができるかが鍵になる。効果的な対策は何か、自分と家族の命を守るために、リスクの高い高齢者を救うためには何ができるか、じっくり考えて行動したい。
9.oct.2020