フェイクニュース?真実? 日本人のBCG接種はコロナに有効の謎を追う

フェイクニュース?真実? 日本人のBCG接種はコロナに有効の謎を追う

「BCG接種が実施されている国ではコロナの影響が少ない」という論文が発表されるなど、日本では一般的な結核予防であるBCG接種の意外な効果が、世界の注目を集めはじめている。

4月2日時点で日本の新型コロナウイルス(COVID-19)による死亡者数は69人。イタリアではその十倍の数が毎日のように亡くなる。深刻な医療危機を引き起こしている世界の惨状に比べると、確かに今のところ被害は少ない。

日本の検査数の少なさが議論の的になっているのは事実だ。しかし、もし仮に感染者が確認されている数よりも多いとしても、肺炎が重症化した患者が多数増えて病院のベッドが不足する状況にはなっていない。政府による情報操作ではなく、日本は影響が少ないというのは真実のように見える。

距離的に中国に近いのに、なぜ日本はコロナ患者が少ないのか?」という世界が首をかしげている疑問に対して、答えの候補のひとつに浮上しているのが「BCG接種」である。


結核とコロナの共通点と相違点

BCG接種が、本来ターゲットにしていた「結核」という病気以外に、「新型コロナウイルス」の予防にも一役かっているのではないか、という推測は、しばらく前からネットなどでささやかれはじめ、査読の状態ではあるが論文も発表された。

結核とコロナ肺炎が同じワクチンで予防できるものだろうか? 両者を比べると、コロナの症状の特徴は肺炎の重症化であり、感染は飛沫による。結核も同じく深刻な肺の病気で、飛沫感染である。なるほど、症状と伝染の方法は似ている。

しかし、一方はウイルスであり、一方は細菌である。となると個体のサイズから違う。抗生物質がウイルス性のインフルエンザには効かないのは周知の事実だ。

ただし、BCGはハンセン病などの伝染病にも一定程度の予防効果を発揮することが知られている。人間が本来持つ免疫力を刺激し、結核以外の感染病を予防してくれる効果は期待できる。

 

歴史:BCGの起源と日本での導入

ここで、少し歴史を紐解いてみたい。

結核菌はドイツの細菌学者ロベルト・コッホにより1882年に発見された。同じく19世紀の偉大な細菌学者ルイ・パスツールの研究所で(パスツールの死後であるが)結核菌のワクチンが開発され、研究者二人の名前を冠した「カルメット&ゲラン桿菌」が誕生した。

本家フランスでは1921年に幼児に経口投与され効果が認められた。日本人も慣れ親しんだBCGが、Bacille de Calmette et Guérinというフランス語の頭文字であるとは、あまり意識してこなかったかもしれない。

そして、日本での発展は、赤痢菌(学名:Shigella)を発見した志賀潔が、1924年にカルメットから培養菌を譲り受けたことからはじまる。志賀がパスツール研究所を訪れた際に、カルメット博士が菌を分けてくれると約束。マルセイユから出る帰朝の船に、博士が菌を郵送してくれたと志賀の文章が残っている。

これをもとに日本は独自にBCGを開発し、亜株Tokyo-172-1を生みだしている。日本でワクチン接種が最初に行われたのが1929年、法制化されたのが1949年。1961年に朽木五郎作らにより管針が考案され、67年から導入された。9本の針を2カ所ハンコのようにおして肌にワクチンを植えつける。

 

世界のBCG事情

結核という病気自体は、アフリカ大陸などに依然として存在しており、毎年多くの人々が命を落とす原因となっている。WHOなど国際機関は、結核の根絶に向けて、BCGを安価に提供するなど長期的な措置を講じている。

しかし、先進国では結核はすでに過去の病気であり、現在は欧州のほとんどの国でBCG接種は義務化されていない。近年は病気自体が稀であるので「費用対効果が悪い」と判断され、ワクチンの副反応も問題視され、万が一結核にかかったとしても、先進国ではいくらでも治療法がある。徐々にワクチン接種は廃止されてきた。

著者の住むベルギーでは、感染症を専門とする医師や、アフリカなど感染の危険性がある国に移住や旅行する人にのみ、特別な例として接種するだけだ。

とはいえ、フランスなどは1950年から2007年までBCG接種が義務だったようだ。一度も義務化されなかったイタリアとは違う。それにも関わらずフランスもコロナの災禍に大きく見舞われているのはなぜか。そもそもBCGに予防効果などないのか。

 

亜株によって効果が異なる?

BCGは、結核の発症を52~74%程度、重篤な髄膜炎や全身性の結核に関しては64~78%程度予防することができる。主な目的は小児結核を予防するためであり、現在は生後5~8ヵ月の赤ん坊に接種することになっている。

ここからが、今後の研究が待たれる部分だが、実はこのBCGは一種類ではない。日本もフランスから持ち帰ったものを亜株Tokyo-172-1という形に進化させた。国や地域によって株の種類が異なり、使われる株によって対コロナの効果が違う可能性がある。

数多くの亜株があるなかで、WHOが国際参照試薬として認定しているものには、Pasteur 1173 P2、Danish 1331、Glaxo 1077、Tokyo 172-1、Russian BCG-I、Moreau RDJなどがある。

1926年を境にして、菌の性質が違うと専門家が解説している。早期にBCGをパスツール研究所から導入したのは、日本、ブラジル、ソビエト連邦、ルーマニア、スウェーデンである。1926年以降の亜株とは細菌学的な形質にはっきりとした違いがある。日本のTokyo 172-1はオリジナルに近い前期のものである。

Tokyo 172-1と他の前期の亜株に由来するワクチンだけが、コロナの予防や重症化防止に効果があるのか? 亜株ごとの性能についても研究が必要だろう。


BCGの有効期間は15〜20年ほど?

フランスの報道などでは、BCGの効果は15〜20年しか続かないので、2000年以前に接種した人は、再度接種しなければならないという論調が一部にある。日本では15年しか結核予防に効果がないと言われている。

「年少者は感染するが、重症化しにくい」というのが、一般的なコロナの傾向である。これが、「若い人ほどBCGの効果が残っている」という推測の根拠となっている。

しかし、この議論は相当あやしい。

もし若い人のBCGが強い説が正しい場合、2007年に接種が廃止されているフランスでBCGの効果が残っているのは、2000年から07年までに接種したティーンだけになる。しかし、現実には生まれたての赤ん坊からティーン前のフランス人の子どもは多くがBCGなしでも重症化せずに済んでいるではないか。イタリアやスペインでも同様である。

この最長20年説がコロナにも当てはまるのであれば、そもそも日本のコロナ耐性がBCGによるものとは考えられない。大人になってからワクチンを再度接種する日本人などいない。

となれば、子どもは重症化しにくいという事実がBCGとは関係なく存在すると考えたほうが論理的である。

そして、重症化の率が低い国や地域では、やはり幼少期に受けたBCGの免疫の記憶が、何十年経っても残っていて、この危機に再起動してくれたのだろうか? この点が最大の謎である。


BCGの効果を新たに検証する

当然のことながら、突如現れたコロナに関して、BCGが有効なのか時間をかけた研究は皆無である。ただし、世界中の先進的な医学機関が、コロナ対策の一つの道筋として、BCGの可能性を探りはじめている。

オランダではラドバウドとユトレヒトの大学医療センターが共同で、1000人の医療従事者をBCG接種とプラシーボの2グループに分けて、コロナウイルスに対する免疫力に差が生じるか実験をする。

ドイツではマックス・プランク研究所が、結核に対するVPM1002という既存のワクチンが有効か、ドイツのいくつかの病院で調査する予定である。

また、オーストラリアのマードック・チルドレンズ研究所も医療従事者を対象に4170人の臨床試験を計画する。こうした研究の成果発表が待たれる。

フランス国立保健医学研究機構の研究部長であるローラン・ラグロスト博士と、パリ第7大学ディディエ・パイアン教授は、イタリアの状況などを踏まえ、BCGの疑問点や可能性などについて分析する文章を共同で発表している。対処療法にしかならないだろうという彼らの立ち位置は慎重ながらも、ワクチンが効果的と判断される場合には、可能性について柔軟に検討するニュアンスも含ませている。

 

以上、日本のBCGの謎について考察した。青い鳥読者の諸賢には言うまでもなく、すべて仮説や推測の域を出ない研究中の事象であり、決して日本人がコロナに強い免疫抵抗力を有しているのだと過信してはいけない。自分そして愛する家族の命と健康が、今、責任のある行動にかかっているのだから。

 

【参考資料】

BCG 世界地図(英語)
http://bcgatlas.org/

世界のコロナ感染、被害統計 Johns Hopkins University
https://www.arcgis.com/apps/opsdashboard/index.html#/bda7594740fd40299423467b48e9ecf6

日本の厚生省のBCGについての説明
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou03/index.html

オランダの例(蘭語):
https://www.radboudumc.nl/nieuws/2020/onderzoek-naar-betere-bescherming-zorgmedewerkers-tegen-infectie-coronavirus

ドイツの例(英語/独語)
https://www.mpg.de/14610776/immune-boost-corona-virus

オーストラリアの例(英語):
https://www.mcri.edu.au/BRACE

フランスの専門家らによるBCGの可能性についての分析(仏語)
https://blogs.mediapart.fr/laurentlagrost/blog/280320/bcg-et-covid-19-comment-soutenir-votre-systeme-immunitaire

2.apr.2020

Hiroyuki YamamotoReporter
2008年からブリュッセル在住。東京外国語大学卒(英語)。欧州連合(EU)の情報収集と、業界向けの定期ニュース配信を行っている。

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