ブリュージュの漁民はイギリスの海で自由に魚をとるができる。しかも永遠に。ブレグジットの後も・・・。1666年の英国王の勅許状は現在も生きているのか?
にわかには信じがたいニュースがテレビから流れてきて、私は自分の目と耳を疑った。17世紀のイギリス王の特別な許可が現在も有効で、ブリュージュの漁船がイギリス沿岸で漁をできるというのだ。
英国の漁場をEUから切り離すブレグジット
EUの支配を嫌い、難民受け入れを拒否し、自治独立の権利を勝ち得ようと欧州連合から脱退しようと交渉を続ける英国。多岐にわたる交渉事項のなかに、漁業権をめぐるものがある。当然、自国の利益を守りたいイギリスは「イギリスの海には他国の漁船は来ちゃいかん」という立場をとりたい。
しかし2017年末の現状として、イギリスも含むすべてのEU加盟諸国は共通漁業政策(CFP)という枠組みの中にいる。CFPは、水産資源の確保その他、漁から流通消費にいたるまでEUとしてのルールを定めたものだ。地図を見ると分かるが、イギリスは周辺諸国よりも比較的広い海域がある。しかし、EUはすべての海域を「みんなの海域」として、ひとくくりにして、基本的にEU加盟国の漁師たちは、どの海域で漁をしてもいいことになっている。(もちろん、漁獲制限があるが)
Beschikken de Zeebrugse vissers nog over een privilege uit 1666 vd Britse koning Charles II om in de Britse wateren te vissen? @terzaketv pic.twitter.com/wMPXmp9nZM
— Geert Bourgeois (@GeertBourgeois) 5 juillet 2017
ブリュージュの漁師に与えられた特権
ブレグジットで英国がEUから完全に離脱した場合、英国の海は英国だけの海になる、そう期待しているところに「待った」をかけたのが、ベルギー北部のフランダース政府である。
ヘールト・ブルジョワ首相がベルギーのテレビ局で自慢げに取り出したのは、「PRIVILEGIE」(特権)と大きく書かれた文章のコピー。
かつての英国国王チャールズ2世が、「ブリュージュの漁船50隻に、イングランドの沿岸で漁をする権利を永遠に認める」とした1666年の勅許状である。これはブリュージュの古文書館で1963年に発見された。
そもそもなぜイギリスの国王がブリュージュの漁民に特権を与えたのか? チャールズ2世は、清教徒革命の内乱で国王派と議会派に国が二分され争うなか、オリバー・クロムウェルの勢力に追われ、大陸で亡命生活を送った。この時期、父であるチャールズ1世は、斬首の刑に処されている。
チャールズ2世は、1646年に亡命したフランスをはじめ、オランダや当時スペイン領だったブリュージュなど大陸の諸都市を転々としている。反国王派から追われる亡命王族を受け入れ、保護してくれた恩義がブリュージュに対してあったのだ。王政復古を完遂した後、ブリュージュに対して感謝の印として、この勅許状を発行したようだ。
本当に有効なの?
ちなみに、1666年の勅許状が現在も有効なのか、試してみたくなるのが人間の心情。古文書での発見の後しばらくした1963年、ヴィクトール・ドパープ氏が、その名もチャールズ2世王号(KING CHARLES THE SECOND)という船に乗り、イギリス沿岸をめざした。イギリス海軍に拿捕され、身柄を拘束されたが、ドパープ氏が望んだように裁判になることはなかった。彼はイギリスの法廷で白黒つけようとたくらんでいたが、英国側の法律家らが勅許状が有効かもしれないと恐れて裁判を回避したという史料が残されている。
ブレグジット後、もう一度チャールズ2世の勅許状の有効性を確認したいブリュージュの漁民が現れるかもしれない。
2.dec.2017
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