サッカーワールドカップ(W杯)カタール大会が、トーナメント4強が出揃った最終段階で、衝撃的な政治スキャンダルが巻き起こった。
欧州議会の副議長の一人であるエヴァ・カイリ議員(44 写真上)らが、カタールから金品を受け取った汚職の疑いで逮捕された。関与した議員らは、カタールの劣悪な労働環境に対して欧州が厳しい態度を取らないよう裏で手を回したと見られている。
カイリ議員はギリシャ出身。かつてテレビ局のニュース・キャスターとして活躍した美貌の持ち主としてEU政界では有名である。欧州議会では社会民主進歩同盟(S&D)の会派に所属している。
ベルギーの警察と検察の家宅調査で、カイリ議員の自宅から大量の札束が詰まったバッグ(15万ユーロ)が発見され、彼女はイタリア人のパートナーと一緒に逮捕、拘留された。
欧州の収賄側の黒幕にはピエル・アントニオ・パンゼーリ元欧州議会議員(イタリア)の存在が判明している。パンゼーリ氏はモロッコに強いコネクションを持ち、カタールはモロッコ経由で贈賄工作を行った可能性がある。パンゼーリ氏のブリュッセルの自宅からは60万ユーロが見つかった。
さらにベルギーではマルク・タラベラ欧州議員(欧州社会党)が家宅捜索され、関与の嫌疑がかけられている。過去の発言を調べてみると、労働者の権利を守るべき立場のタラベラ議員の発言は、ある時期から「カタールには改善が見られる」と、明らかにトーンが変化している。波紋はまだまだ広がりそうだ。
カタールの人権問題
今回W杯でドイツ代表チームが、キャプテンの腕章に性的マイノリティーを象徴する虹色を使用することを許可されず、「言論の弾圧」を揶揄して口を塞いだポーズで集合写真を撮った「事件」も発生した。カタールでは同性愛が罪になる。
石油の産出で潤う裕福な国である一方、外国からの労働者を酷使して人権を侵害していると以前から指摘されてきた。
W杯で使用されるスタジアムの建設で、約6500人の労働者が約10年の間に命を落としたと一部で報道されている。現代の奴隷制と悪名高い「カファラ制度」の犠牲者である。
Kafala system カファラ制度
カタールをはじめ中東諸国特有の労働契約をカファラ制度という。カタール人の雇用者が保証人となり、外国人労働者に職を提供しビザを発給する。労働者の主な出身国はインド、ネパール、バングラデシュ、フィリピンなど貧しい地域からの出稼ぎ労働者で立場が弱い。
この制度により、酷暑での強制労働、契約の書き換え、就職斡旋料の請求、雇用主によるパスポートの没収が行われ、死傷者を出すほどの人権侵害が発生してきた。
約200万人の出稼ぎ労働者を保護するため、2017年からカタール政府も改革に取り組んでいる。転職や国外脱出を容易にすること、最低賃金の設定、酷暑対策、支援組織と保険基金の設立など。
人権団体アムネスティは過去の検証や被害者救済の措置がなく、古い労働慣習も残り続け、改革は道半ばであると批難している。
エヴァ・カイリ欧州議会副議長の自宅から押収された現金15万ユーロ。
ピエル・アントニオ・パンゼーリ元欧州議会議員。彼のかつての秘書がカイリ副議長のパートナーであるフランチェスコ・ジョルジ氏。