ベルギー東部のトンゲレンのガロ・ローマ博物館では、ダキア・フェリクス展が開催されています。
2年に1度、国のテーマを決めてブリュッセルで文化芸術祭を催しているユーロパリア。2019〜20年は「ルーマニア」がテーマ国ということで、博物館では古代ルーマニアの考古学遺産を展示します。
欧州の南東に位置するルーマニアは、古代ローマ帝国の時代、ダキア・フェリクスと呼ばれていました。黒海に面したその地は、いろいろな民族が往来する場所であり、考古学の発掘でも異なる文化の影響を見ることができます。
実際に展覧会場では、ローマ、ダキア、ゲタイ、ギリシア、スキタイ、ケルトという6つの民族について、それぞれスペースで区切って、装飾品や彫像など見て回るようにレイアウトされています。
オープニングに際してプレス公開に参加した青い鳥のレポートをお届けします!
主な見所をご紹介
ローマ帝国は紀元101年から106年にかけて、トラヤヌス帝が東方のダキアを征服し、属州として帝国の支配体制に組み入れました。
2つ並べられた大理石の像は向かって左がトラヤヌス帝、右のとんがり帽子がダキアの人物。(ヴァチカン博物館所蔵)
ちなみにローマには、ダキア戦の様子を記した記念円柱が残されており、そのレリーフが当時の様子を後世に伝えてくれています。
会場では仏蘭英のオーディオガイドが用意されています。重要なアイテムには詳しい説明がついているので、それを聞きながら回るといいでしょう。
ルーマニア人の祖先たち
さて、時代をさかのぼって、紀元前のダキアへと時間旅行。
紀元106年にローマ帝国に支配される前、紀元前150年頃から、現在ルーマニアがある地方は、複数の王が支配していました。限られたエリート集団が、政治、軍事、貿易、外交、宗教を運営する状態です。ときにはブレビスタやデケバルスなど、連合王国を統一する人物も現れますが、ローマほど組織だってはいませんでした。
ルーマニア国立歴史博物館が所蔵する当時の王族が身につけていた金の腕輪に注目です。24個のセットで、一つが約1キロの重さです。宗教行事に際して、高位の巫女か王族の女性が身につけたと考えられます。
次にゲタイ族。
こちらも紀元前の古い時代。ゲタイ族の杯と兜を見てみましょう。
展覧会のポスターにも登場する杯は、リュトンと呼ばれるもので、角の形をしたカップ。こちらは銀で作られており、儀式で使われました。上部には神官たちがリュトンを手にしているのがお分かりでしょうか?
黄金の兜も強烈なオーラを発しています。実用というよりは、儀式やパレードのときに用いられた装飾品のようです。正面の大きな目は魔除けの意味があります。
ゲタイ族は、トラキア系で、紀元前5世紀頃から記録に登場し、独自の言語と宗教を持ち、多くの王国を作って繁栄します。遊牧系のスキタイ族、ギリシア人、ペルシアなどとも交流し、その影響が芸術的な表現にも繁栄されています。
ルーマニアの風景を描いた印象的なビデオはベルギーの映像制作グループArizona Filmsさんの作品で、オール現地ロケ。
そしてギリシア。
海洋民族のギリシア人は、紀元前650年頃からすでに黒海沿岸のドブロジャ地方に住み着いて、ルーマニアに政治制度や宗教、芸術を広めていました。ギリシア植民地とゲタイ族は、ときには対立し、ときには共存関係にあり、お互いに影響を与え合う交流が続きました。西暦46年にローマ帝国にドブロジャ地方は併合されますが、ギリシア文化は存続します。
続きまして、黒海北部の遊牧系スキタイ族。
スキタイ族は黒海北岸から内陸にかけて勢力を誇った遊牧民族で、動物をモチーフにした工芸品を多く残しています。馬の額につける飾りを見てみましょう。全体は魚に見えますが、どうやら頭はイノシシ、尾はトリのよう。
お墓の上に設置されていた石像も、面白い風貌をしています。戦士の墓だったのでしょう。手には斧を持っています。
さて、最後にケルトの遺物に出会います。
紀元前6世紀頃から、中部ヨーロッパ、アルプス山脈の北側にいたケルト族は、紀元前320年頃から勢力図を拡大し、ルーマニア西部のトランシルヴァニア地方まで進出してきます。この地方の北東で取れる塩が目的でした。塩は料理に使うことはもちろん、食料の保存に役に立つ重要な食材でした。
銅、スズ、鉄など金属の加工に精通したケルト民族は、複雑な幾何学模様の工芸品を残しています。
今回の展示のなかで特徴的なのが、ケルトの墓から出土した鷹のヘルメット。ブロンズ製で、ガラスも使われた珍しいものです。明らかに軍隊を率いた将軍のものでしょう。
展示会場には子どもも楽しめるゲームが用意されています。ヘルメットをかぶった姿を写真に撮ってみたりして。
ダキア・フェリクス展の空間デザインは、以前の企画展Timeless Beautyに引き続いて、SHSH Architecture + Scenographyが担当しました。
ブリュッセル拠点の日本人建築家デュオが、訪問者を自然に歴史の奥深くに誘い込む空間作りに成功しています。
【展示会情報】
ダキア・フェリクス展
会期:2019年10月19日〜2020年4月26日
開館:火〜金 9:00 - 17:00 土日祝 10:00 - 18:00
※祝日以外の月曜は休館。
ガロ・ローマ博物館 Gallo-Romeins Museum
Kielenstraat 15, 3700 Tongeren
+32 12 67 03 30
https://www.galloromeinsmuseum.be/
オープニングには、ルーマニア国立歴史博物館からディレクターのErnest Oberländer Târnoveanu氏(右)も駆けつけて記者会見
ガロ・ローマ博物館のキューレター陣が熱心に解説。
今回、展示パネルの文章はオランダ語とフランス語のみ。オーディオガイドには英語があります。
考古学的な装飾品と、映像、ゲームなど、センスよくまとめられた展示です。ぜひ、ベルギー最古の街トンゲレンにおでかけください。