Wozzeck「ヴォツェック」

ドイツの劇作家・革命家のゲオルク・ビュヒナー(1813~1837年)は、「ヴォイツェック」、「ダントンの死」、「レンツ」などを、その短い23年の人生で残した。20世紀になってから文学界に再認識され、その名を冠したゲオルク・ビュヒナー賞は、現代ドイツにおいて最も権威のある文学賞である。

この断片的な戯曲「ヴォイツェック」は、1821年にライプツィヒで起きた殺人事件の加害者ヴォイツェックの精神鑑定の記録をもとに書かれた。

ウィーンの作曲家アルバン・ベルクは、第1次世界大戦に徴兵される前の1914年、ビュヒナーの戯曲を観劇し、オペラの着想を得る。戦争の体験と中断を経て、彼自身が台本を書き、衝撃的で普遍的な意義を持つ傑作となった。(ベルクのオペラ作品では「ヴォツェック」と表記される)

作曲家ベルクは無調音楽を経て、師シェーンベルクが確立した12音技法も用いた。本作では歌と語りの中間の歌唱技法(シュプレヒシュティンメ)も使い、演劇的緊張感が張り詰めるなかで、15の短い場が一つひとつ不気味に進行する。

社会との繋がりを渇望する貧しく脆い一兵士が、虐待、拒絶されて次第に殺人という一つの強迫観念に囚われて人間性を失っていくさまを、容赦ない生々しさと率直さで描き出している。

全3幕(各幕5場)ドイツ語 約1時間45分

 

Wozzeck「ヴォツェック」

作曲:Alban Berg(ベルク 1885~1935年)
初演:1925年12月14日 ベルリン
指揮:Alain Altinoglu
演出:Christophe Coppens
公演日:2026年11月8、10、12、14、17、19、22日 
開演:20:00 日曜日15:00
チケット発売開始日:8月28日

モネ劇場 公式サイト(英語)ページ

https://www.lamonnaiedemunt.be/en/program/3931-wozzeck

 

詳しいあらすじ

第1幕
第1場 大尉の部屋、早朝

元理髪師の兵士ヴォツェック(バリトン)が、上官の大尉(テノール)の髭を剃っている。

大尉は「ゆっくりやれ」と命じ、彼が結婚しないで女に神に祝福されない子供を産ませたことを非難する。

黙って聞いていたヴォツェックだが、「自分のような貧乏人は道徳的に子供を作れと言われたってできやしないんです」と答える。

屁理屈に呆れた大尉は、「落ち着いて、ゆっくりな」と言って彼を帰す。

 

第2場 郊外の野原、夕方

ヴォツェックが、兵士仲間のアンドレス(テノール)と一緒に大尉の杖を作るために木を切っている。

ヴォツェックは「ここは呪われている。首が転がっている」と妄想に怯え、アンドレスは始めは気にせず鼻歌を歌っているが、次第に気味が悪くなる。

太陽が沈み辺りが暗くなると、「静かだ、世界が死んだようだ」と口走るヴォツェックをアンドレスが連れ帰る。

 

第3場 マリーの部屋、夕方

ヴォツェックの内縁の妻マリー(ソプラノ)が、ヴォツェックとの子をあやして窓辺にいる。

道を軍楽隊が通り、先頭を歩く鼓手長(テノール)がマリーに手を上げ、それにウィンクで答えるマリーを見て、隣家のマルグレート(アルト)が嫌味を言う。

これに腹を立てたマリーが窓を乱暴に閉め、子どもに子守唄を歌い始めると窓を叩く音。

窓を開けるとヴォツェックが立っていて「すべては灼熱の中に燃えた。すべてが真っ暗だ。そいつは町の入口まで俺の後を追ってきた」と訳のわからないことを口走る。

彼を落ち着かせようと、マリーは子どもを抱かせようとするが、ヴォツェックは子どもを見ようともせず急いで立ち去る。

 

第4場 医者の書斎、午後

ヴォツェックは、生活費の足しにするために医者(バス)の人体実験となっている。

今週は咳をせず、豆しか食べてはいけないという指示をする医者は、時々咳をするヴォツェックを叱責し、来週は羊の肉しか食べてはいけないという指示を出す。

ヴォツェックは「太陽がまだ真昼に輝いている時に世界が燃えるようになって、恐ろしい声が俺に話しかけてきた!」などと言い始める。

「局部性精神錯乱の第2種だ、珍しい症状が出た」と自分の実験結果に喜ぶ医者は「俺の名声は不滅となる」と恍惚として叫ぶ。

 

第5場 マリーの家の前の通り、夕方

マリーは、鼓手長を惚れ惚れと眺めながら彼に近づく。

鼓手長が「お前もいい女だ!鼓手長の訓練をしてやろう」と言ってマリーを抱く。

はじめは拒むマリーだが、激しく抱く鼓手長に「どうでもいいわ、どっちにしても同じなんだ」と言って、投げやりに身を任せて家の中に入る。

 

第2幕
第1場 マリーの部屋、朝

マリーは子供を膝の上に乗せ、鼓手長にもらった耳飾りをつけ、鏡の欠片に映る自分の顔を見ながら「金持ちの奥さんたちと同じように私の唇は赤いわ」と呟いている。

そこに入って来たヴォツェックは、耳飾りを見て「それは何だ?」と訊くが、マリーは「拾った」と嘘をつく。

納得できないヴォツェックだが、マリーに大尉と医者から貰った給料を渡して出ていく。

マリーは自分は悪い女だと責める。

 

第2場 町の通り、昼

大尉が、急ぎ足の医者に「そう急ぎなさんな」と声をかける。

医者は「このところ急死者が多いので忙しい」とその理由を話し、大尉の顔を見て「4週間で脳卒中を起こす」と宣言する。

これを聞いた大尉はショックを受けるが、人々が自分の死を悲しむ所を想像して感動してしまう。

そこにヴォツェックが足早に通りかかるので、医者が呼び止める。落ち着きを取り戻した大尉はヴォ

ツェックに「お前の家の料理に男の髭が入っていなかったか?」と訊ね、マリーが鼓手長と良い仲になっていることを仄めかす。

ようやく意味を理解したヴォツェックはおどおどと心を乱し、医者はそれを観察して「顔面筋肉硬直、両眼凝固」と呟く。

ヴォツェックは挨拶も忘れ家の方に駆け出す。

 

第3場 マリーの家の前、昼

マリーが戸口に立っていると、ヴォツェックが急ぎ足でやって来る。

彼はマリーをじっと見つめ「お前は罪悪そのものの様に美しい」と言ってから、戸口の一角を指して

「そこだ!男はそこに立っていたのだ」と言い、「あばずれ女め」と手を振り上げる。

しかしマリーが「私に触れないで」と叫ぶので、ゆっくり手を下ろすヴォツェック。

マリーは「手でぶたれるより、ナイフで刺されたほうがましだわ」と言って家の中に入っていく。

マリーを見送ったヴォツェックは「ナイフのほうがましか。自分の奥底をのぞくと頭がくらくらする」と呟く。

 

第4場 酒場の庭、夜

楽隊がレントラー舞曲を演奏し、若者、娘、兵士たちが踊っている。

入って来たヴォツェックは、マリーが鼓手長と体を寄せながら踊っているのを見つけ嫉妬に狂う。

そして二人に近づこうとするが、その時踊りが終わるので機会を失う。

ギターを抱えて歌うアンドレスに声をかけられるが、ヴォツェックは取り合わない。

酔って眠っていた職人(バリトン)が「人は何によって生きるべきか」と演説し始める。

そこに現れた愚者(テノール)がヴォツェックに近寄って「血の臭いがする」と言う。「目の前が赤くなる」と呟くヴォツェック。

 

第5場 兵営の衛兵室、夜

兵士たちが眠っている。

だが眠れないヴォツェックはアンドレスに「目を閉じるとあの2人が踊っているのが見える」と言うが、相手にされない。

そこに酔った鼓手長が陽気に帰ってきて「俺には女がある」と言い、アンドレスが「どこの女ですか」と尋ねると、「ヴォツェックに訊け」とその女がマリーであることを仄めかす。

ヴォツェックと鼓手長が取っ組み合いとなり、格闘の末ヴォツェックをねじ伏せた鼓手長は意気揚々と出ていく。

ヴォツェックは「順々にひとりずつ」と呟く。

 

第3幕
第1場 マリーの部屋、夜

マリーは、子どもの横で机に向かって聖書を読んでいる。

「パリサイ人ら、姦通せし女を連れ来たる。しかしイエス言い給う、我も汝を罰せじ、行け再び罪を犯すなかれ」。

マリーは頭を抱え、「ヴォツェックは昨日も今日も来ないと」と不安に駆られ、再びマグダラのマリアの章を開き神に祈る。

 

第2場 池のほとりの森の道、夕暮れ

ヴォツェックが、マリーと連れ立って池のほとりにやって来て腰を下ろす。

「俺たちが知り合って何年たった?」と尋ね、「3年よ」と答えるマリーは、気味が悪くなって帰ると言う。

ヴォツェックは「お前は善人か、貞節か?」と責め、「なんてかわいい唇をしているんだ」と言ってキスする。

昇ってきた月を見て「血塗られた剣のようだ」と言うヴォツェックは、ナイフを抜いてマリーの喉を突く。

マリーは「助けて」と叫び絶命する。怖気づき走り出すヴォツェック。

 

第3場 居酒屋、夜

ポルカの音楽にのって娘や若者たちが踊っている。

ヴォツェックはマルグレートに抱きついて踊り、彼女を膝にのせて話しかける。

「今日は暴れたいんだ」と言うヴォツェックの手や腕に、血が付着していることに気づくマルグレート。

「怪我をしたんだ」とその場しのぎで言い訳をするヴォツェックに、集まってきた娼婦や若者たちは「血だ」と騒ぎ出す。

ヴォツェックは、その場から逃げ出す。

 

第4場 池のほとりの小道、月夜

よろめくように池にやって来たヴォツェックは、殺人がばれたら大変だとナイフを捜し回り、マリーの死体に躓く。

「どうしてお前は首に赤い紐を巻いているのだ」と言うが、すでに彼は理性を失っている。

彼はやっと見つけたナイフを池に投げ入れるが、「これでは近すぎて見つかってしまう」と、もっと遠くに投げようとして池に入り、そのまま溺れてしまう。

通りかかった医者と大尉は、池の方で物音がするのに気づき「誰かが溺れているようだ」と言うが、やがて静かになると気味悪がってその場から立ち去る。

 

第5場 マリーの家の前、朝

子どもたちが遊んでいる。

一人の子どもが、木馬にまたがって遊んでいるマリーの子に「君のお母さん死んだよ」と言う。

子どもたちはマリーの死体が置いてある池の方に走り去る。

意味が解らないマリーの子は一人で木馬で遊ぶが、皆の後を追って幕となる。