楽器というと、肉屋に一番なさそうなものである。アントワープの肉屋のギルドハウスでは、600年前から近世に至るまでの、劇場や舞踏会さらには街角で使われてきた楽器の数々を「Sounds of the City」(地下の常設展示)で披露している。もちろん実際の音も聴くことができる。楽器を演奏する人は楽しめる見学スポット。
16世紀の面影を残すギルドハウス
この場所にある肉屋ギルドの歴史は古い。1250年にブラバント公により建て替えが依頼され、市の予算で建物が作られた。おそらく屠殺場として機能し、食肉産業の管理も行われたと考えられている。16世紀初頭に、ブラバント公は2倍の大きさに建て替えする許可を出す。このときは肉屋ギルドが全額負担し、肉屋およびギルドホールとして使われることになる。地上階の奥には「ギルド・チャペル」まで設置された。現代の私たちが目にしている建物は、この16世紀初頭の面影をしっかり残したものである。
建物正面は、堂々としたフランドルの破風造り、時代を感じさせるレンガと砂岩で作られた壁が印象的で、ゴシック様式の窓がついている。
19世紀中頃に肉屋ギルドの歴史に幕
1796年、フランスがギルドを解散させ、その3年後にはギルドハウスも売却されてしまう。肉屋の商売は細々と続いたが、別のビジネスに貸し出された。さらに1841年にはワイン商に売却されて、肉屋の歴史は幕を閉じることになった。
その後、アントワープ市が楽器のコレクションを展示する場所として生まれ変わった。特に「街角で聞こえてくる音楽」「人々がダンスするための音楽」などが中心テーマとなり、中世から近代に至るまでの楽器と人との関わりが見える展示である。
小規模な展示。地下のストリートオルガンは必聴
正直なところブリュッセルの楽器博物館に比べると、規模や質の高さでは見劣りする。展示はすべてオランダ語で、入り口でもらえる英語の小冊子も、全体の説明だけ。質問したい場合は係員に英語で訊ねるしかないだろう。オーディオガイドも、ブリュッセルの「楽器の近くに寄ると自然に音楽が再生」という気の利いたシステムはなく、数字を逐一打ち込まなければならない。
地下の常設展示では、大きな自動演奏式のストリートオルガンを聴くことができる。(係員にリクエストしないといけないが)装置の中もちらっと覗ける。楽譜シートがパタパタと送られていく様子が面白い。これはなかなかのインパクトなので、ぜひ頼んで演奏してもらおう。
Vleeshouwersstraat 38,
2000 Antwerpen
開館時間:火曜~日曜 10時~17時
休館日:1月1日、5月1日、昇天祭、11月1日、12月25日
※以下のYoutube動画は過去の企画展。ストリート・オルガンは2017年7月の訪問時は1台のみだった。