MIRAI.asbl 震災遺児をベルギーに

【インタビュー】非営利団体MIRAIは2011年の東日本大震災で遺児になった子どもたちをベルギーに短期ホームステイさせることを活動の中心にしたグループです。

 http://mirai-asbl.com/ja

ルーヴァン・ラ・ヌーヴに在住の木村寿子さんを訪ねて、具体的な活動の様子をインタビューしました。

 

Q 活動をはじめたキッカケは何ですか?

 皆さんそうだと思うんですけど、テレビですごいニュースが流れているよと言われて見たら、地震と津波の映像でした。震災の後は、しばらくどうしたらいいか分からないまま過ごしました。ボランティアに対する態度は人ぞれぞれだと思います。少しだけ貢献して満足の人もいれば、まったく何もしない人もいる。私にとって選択肢はハッキリ言ってしまえば、やるか、やらないか。でも、住んでいる場所がブリュッセルではないので簡単にブリュッセルのイベントに参加することもできない。それで自分から動いて何かをする、それしか残された道はなかったんです。

 日本人って熱しやすく醒めやすいから、一般の人の活動は長く続かないんじゃないかな? と思っていました。であれば、自分がまず動き出そう、長く続ける活動の土台を自分で作って、その上でもし誰かが「一緒に協力するよ」と言ってくれるのであれば、また考えていこうと決心しました。

Q なぜ遺児をホームステイの対象者に限定したのですか?

 最初は「被災児」つまり小さい子どもを含めて災害に遭った子ども全員を対象にということも考えていました。しかし被災地全体を考えると、本当に膨大な数になってしまいます。それを私のような小さな団体が対応できるのか、その当時も今も小さいんですけど、全体に対応するのは本当に無理だと考え直しました。手を広げれば広げるほど、意味合いが薄くなるんじゃないかと。

 一方で、やるからには細部までこだわりたい、手を抜かないサポートをしたい。ならば自分たちが出来る範囲を決めて、絞り込まなければ、本当に自分たちがやるべきことが明確に見えてこない。だから「やるべきこと」のなかで「出来ること」を絞り込む段階で、相談も重ねて、遺児だけを対象にしようと判断しました。そのかわり、最初の1年、2年だけじゃなく、継続的に彼らをサポートしていく、一度関わった子どもたちは、この先もずっと関わっていくと決めました。

Q 特に「子ども」をテーマにしたのは、ご自身が母親ということが影響していますか?

 私は元々、もう一人女の子がいたんですが、産まれたときからの難病で、5歳の誕生日の前に亡くなってしまったんです。ですから、私自身も喪失体験があります。もちろん、状況は逆なんですけどね。被災地の子どもたちは親を亡くして、私は子どもを亡くしている。でも、喪失体験のある人間は、同じ体験をした人の気持ちは痛いほど分かるんです。私はその女の子を若いときに産んだので、なおのこと気持ちの寄りどころだったという感じもあったんです。

 震災で親を失った子どもも同じだと思います。たとえ反抗期の子どもでも、彼らにとって親の存在は寄りどころなんです。親がいるからこそ反抗できるのであって、親を失ったら何もできない。そういう意味では、どんな状態であっても、親というのは大事な存在なんです。反抗期で「こんな親なんていらない」と思っていた子どもでも、実際に親を失ってしまうと、ものすごい喪失感があるものなんです。普段から仲が良ければなおさらでしょう。彼らの気持ちは、私のなかでは痛いほど強く感じます。

 

Q 具体的にどうホームステイをアレンジするのですか?

 まずは被災地に私自身が訪ねていくことですね。被災地で自分のプロジェクトに共感共鳴してくれる人なりグループなりを見つけて、そこで協力をお願いしています。興味を持っていただけそうだと思ったら、全然知らない人だとしても電話して「こういう活動しているので、ぜひお会いしてください」とミーティングの約束を取り付けたり。

 日本国内のサポートはボランティア団体ですとか、自治体でも協力してくれるところもあります。そして、募集の告知は県庁の教育部署から各学校に情報を流してもらったりしています。

Q 中高生が基本対象なんですね?

 滞在のプログラムを作るに際しては、仙台にあるグリーフ・ケア研究会というところの先生に相談をしました。こちらで作った内容案に対していろいろアドバイスを一番最初の段階でいただきました。
 例えば、最初は小学生でもいいよという話をしていたんですが、先生からのアドバイスは「やめたほうがいい」ということでした。なぜかというと、10代にもならない子どもたちは、現実と理想の世界の区別がつけにくい、だからいい思いをして帰ってしまうと、その後現実の生活を受け入れづらくなってしまう子が傾向的に多いそうです。

 そうすると、帰ってきてから本人たちが辛くなります。逆にそれが別の喪失体験、つまり自分の居場所がまたなくなっちゃったという感覚につながりかねない。

 でも、中学生・高校生というのは、もっと現実的に自分の将来に目を向けようとしたりですとか、大人になろうという部分があるので、何のために自分はここに行くのかという目的意識を自覚しながら来る。そのあたりを踏まえた上で、やはり対象年齢は制限したほうがいいというアドバイスをいただいて、私もまさしくその通りと思ったので、そのように実行しています。私たちは所詮素人なので、プロのアドバイスは絶対必要なんです。

Q 滞在先はどのような環境ですか?

 去年4人、今年3人がホームステイに来ました。全員、普通の一般ベルギー人家庭に滞在して、私たちは一切関わらないという方針です。まさに「はい、どうぞ、いってらっしゃい」という感じです。1日だけレクリエーションの日を設けて集まりますが、それ以外はファミリーの一員として過ごします。ホームステイ先はだいたいフランス語環境で、少し英語を混ぜながらコミュニケーションをとります。去年はまったくフランス語だけという家庭に一人行きましたよ。でも、辞書片手に一生懸命なんとか話しながら、結局は楽しく過ごしていました。

Q コミュニケーションは大変そうですね。

 でも、日本人は傾向として、子どもがあれが欲しい、これがしたいと言うより前に、大人がそれを察知して「これが欲しいの?」「これやっていいよ」とか言ってしまいがちですよね。だから、子どもたちが自分たちの言葉で意思表示をせずに済んでしまうんです。

 その上で被災地の子どもは、例えばお父さんが亡くなって、窮屈な仮設住宅でお母さんと弟と住んでいるというケースなんかが多いんです。そんな子は、自分の思いを素直に言えないんです。自分が何かわがままを言えば、お母さんが困るのは分かっているから。お母さんは住む家や財産、何よりお父さんを失ってこれから家庭を立て直さなきゃ行けないと気負っている。それは子どもにも分かります。そこで自分がこうしたいとかああしたいとかなかなか口に出せないいんです。そういった意味で、我慢している上で「話し、伝える」ことを止めてしまっているんです。震災の1年後ぐらいは何とかなっても、2年ぐらい経った後にそれが子どもたちのストレスになってきています。だからどこかで「自分の気持ちや考えを口に出して伝える」ということの大切さを教えなければ、子どもたちは溜め込む一方になってしまう。

 だからこのホームステイの機会に於いて、ちゃんと伝えることの大切さを身を以て学ぶために、私たち日本語を話す人間が近くにいちゃいけないんです。だからあえて、私たちは一切関わりませんよ、と事前に本人たちへ説明をし、本人たちの承知の上で来ることを選びます。問題があったときだけ行くけれども、基本的にはホストファミリーのほうに任せています。そうすることによって、片言でも確実に自分の言葉を出す、それが上手いか下手かというのは全然問題ではなくて、いかに自分が伝えようとするかという「動き」、それがすごく大事なんです。それを私たちが言わなくても子どもたちが確実に実践してくれます。それは彼らが自分で選んでここに来ると決めたから。モティベーションがある子たちだから、言わなくても自分で理解して行動しています。

 

Q この活動を通じて気がついたことは?

 私がちょっと感じたのは、去年の暮れから日本人の留学生と関わるなかで、彼らがいいか悪いかはさておき、教育の質、学校の現場、家庭の教育の質について一層深く考えるようになりました。日本においても最近では、子供たちはモノに対するありがたみがまったくない、自分が携帯を持っているのも当たり前で、ないほうがおかしい。そういう物事に対して「ありがたい」と思う気持ちの薄れは「これは絶対まずいぞ」と日本にいるときから感じていました。それはそういう風に育っているのでしかたないかもしれません。

 私はどちらかというと自分の子どもに対して厳しいので余計なものを買い与えたりしないほうなんです。欲しいなら自分でバイトするなり、どこかでお手伝いしてお小遣いもらうなりして、お金を貯めて買いなさいと言っています。その世代は、あるのが当たり前、やってもらうのが当たり前、理解してくれて当然だろうというメンタリティーなんです。

Q それは震災遺児の子どもたちにも感じますか?

 それがまた違うんです。もちろん、まったくない、というわけではない。ただ、大きな差を感じるのは、彼らは大きな喪失をしている、しかも震災直後はすごく辛い期間もあった。だから例えばパン一枚でもオニギリ一つでも、ありがたみをすごく身にしみて分かっている子たちなんです。何かやってもらうことに対して、当たり前という意識はない。

 こちらが何かすると「ありがとうございます」とすぐに言うし、一つ一つの物事に対してきっちり反応する「すごくいい経験になりました」という言葉もポンと出てくる。

Q 人間としては、逆境にあって成長するんでしょうね。

 だれでも辛い体験はしたくないけれども、起きてしまったことで戻れない現実があるなか、彼らがその経験をどう活かしていくのか、どうポジティブに持っていくのかで、彼らの人生は大きく変わっていくんです。そういった意味で、彼らがポジティブに考えているなかで私たちがポジティブな働きかけをすることが大事だと思います。そこで、相乗効果が産まれるのかなと考えています。

Q このホームステイの最終的な目的としては、彼らの人生にポジティブな「きっかけ」を与えることなんですね。

 そうですね。でも、よく勘違いされるのは、「いつも頑張れ、頑張れ」というのも実はポジティブではなくて、例えば人間だから喜怒哀楽があって、怒ることもあれば悲しむこともあるのは絶対に当然なんです。我慢して悲しむのをやめる、悲しむところを見せないというのはポジティブではないと思います。本当に辛いときは「辛い」と言う、それも生きている人間の自然な行動であって、必ずしもネガティブなことではないんです。

 大事なことは、そういった感情を吐き出していきながら、自分がそれをいかに消化していくか、その段階をきちんと踏んでいくことが重要なのです。そのためには誰かに聞いてもらうことも重要です。私たちが出来る範囲で、たまに会って話を聞く役割をしたり一緒に楽しい時間を過ごす。そこで彼らが喜怒哀楽を出していき、その過程で気づくことや学ぶこともあるでしょう。彼らが人間として成長していけば、それが私たちにとっての一番の成果だと思います。

Q ホームステイに来た子どもたちから、その後連絡などありますか?

 もちろん今でもベルギーに来た全員と関わりを持っています。例えば、たまに「こんなことで落ち込んでいます」とか連絡が来るんです。元々すごく前向きな子でも、やっぱり人間だから喜怒哀楽があるんです。急に腹が立つこともあれば、急に目の前が真っ暗になることもあるんです。普段前向きに生きようとしているけれども、ちょっとしたときに、いろいろなことを考えたりするのが人間だし、ましてや子どもだったら尚更です。

 いろいろな気持ちをもって毎日を過ごしている。日常のある場面でどういうふうに感じているのか、それをメールなどで私に送ってくれると、「あ、こういう感情を抱いているんだな」というのが私も分かる。子どもたちは、少なくとも気持ちを吐き出すことができるんです。子どもにとって、それが大事なんです。それから、連絡をもらうことで、彼らがベルギーに来たことが実際に作用しているんだ、成果が少しづつ出ているんだなと、私のほうで確認ができて嬉しいです。やっていることの意味が実感できる瞬間です。このやり方で少しづつでも、とにかく地道に続けていけば、子どもたちをサポートすることができるんだと感じられます。一人でも二人でも、少しでも多くの子どもたちに対して、私たちが出来ることを最大限やっていこうと思います。

Q かなり順調に進んでいるのではないですか?

 いいえ。(笑)資金の面もそうですし、苦労もありますよ。日本国内のボランティア団体などとつながりをつくるのも大変です。日本人はやはり顔を合わせて話をしないと、分かり合いづらい部分もあります。特に被災地の方はそういうのを大事になさいます。被災地へはミーティングのためだけに自腹で訪ねていきます。ベルギーで全部やりますよ、だけでは通用しないので、コンタクトを積み重ね、横のつながりをつくっていかなければ、うまく回らないですよ。

 企業にスポンサーを依頼するにしても、基礎ができていれば、検討してもらえます。今、2年半経ってやっとそういうふうに言っていただける方が出てきたんです。最初はどこに話をもっていっても「ウチはそういうことやらない」って断られて、本当に毎日泣きたい気持ちでした。資金対策は本当に辛くて、でもなんとかここまで来て、ようやく実績を積み始めたからこそ、皆さん検討してみるよと言いはじめてくれたんです。私という人間とMIRAIという団体をよく知っている方が何人かいらっしゃって、紹介をしていただいたり、かけあっていただいたり。

 それは一朝一夕に出来ることではなくて、まず自分が信用される人間になるべきだし、このMIRAIという団体が信頼されるような実績を残さなきゃいけない。だから、この最初の2年半はただひたすらそこのことばかり考えてやってきました。

Q 被災地に送るクリスマス・カードの制作プロジェクトについて教えてください。

 これも遺児が対象です。育英基金やサポート団体などから、子どもの名前や性別、できれば年齢も入れてもらったリストをいただいてクリスマス・カードを送っています。

 震災直後や昨年は、被災地の子供たちへ海外のいろいろなところから子どもたちに手紙が届いたんですけど、多くの場合、送り主の名前は書いているんですけど、宛先の名前がない。不特定多数のなかの誰かに渡るだろうという手紙なんです。そういう手紙ばかりだと、「ありがたいけど・・・現実味がない」という感じに、「もらい疲れ」になるそうです。でも、自分の名前が書いていると、「あ、私宛に手紙だ」と分かって意味合いが全然変わってきます。

 自分の知らない人なんだけど、私のためにカードを作ってメッセージを書いて送ってくれるとなれば、子どもたちにとっては重みが違うんです。まだ忘れられたくないんです、3年近く経っても。だから「私はあなたを応援している」というダイレクトのメッセージは子供たちにとっては大きな意味を持ってくるのです。

Q 木村さんのアプローチは心理学的ですね。

 そういうところを考えていくことは大事なんです。この活動は彼らのためであって、私たちの自己満足のためじゃないんです。子どもたちがよりポジティブになる、閉じていた心を少しでも開いていく、そういった目的です。その目的を達成するためにプロジェクトも設計しています。目先のことで喜ばせるということではなくて、1年後とか5年後とか10年後、未来を見据えたビジョンをもって、今、私たちが考えて行動しないといけないと思います。

Q 今足りないものは、ありますか? やはり資金的なところでしょうか?

 それもあって、ルーヴァン・カトリック大学(UCL)と一緒に、2014年2月26日(水曜日)にイベントを開催することになりました。(後記:イベントは大成功のうちに終了)

 

 大学としても、漫画やゲームだけじゃない日本への興味関心を深めてもらおうという意図があります。そこで、Aula Magna (Louvain-La-Neuve)という大きなホールなども完備した場所を終日借り切って、日本の文化紹介コーナー、体験コーナーを設けたりして日本とベルギーをつなぐというプロジェクトを企画しています。

 これは二部構成で、昼間は学生とファミリー向けの催し(書道、折り紙、華道、剣道、合気道、屋台村)です。日本の食べ物は、うどん、オニギリ、お好み焼きなどを販売します。

 夜は招待限定で、入場料を払っていただくのですけど、震災のドキュメンタリー・フィルム、被災地の復興写真展、コンサートを企画しています。あとはプロジェクトの説明、UCLのプレゼン、大使のお言葉をいただいて、ということもあります。夜は立食のビュッフェ形式のディナーを用意します。そこでの資金をMIRAIの活動資金にあてます。

 

 

Q 被災地について理解が深まるといいですね。

 現状を知っていただくということは、悪いところだけを見せるのでは意味がありません。被災地の人々がどのようにして自分たちの地域を再建していこうとしているのかも紹介したいと思っています。ただ悲しい光景だけじゃなく、前を向いて歩いていこうとしている被災地の人々の姿勢を見ていただければ幸いです。


Interview with Ms. Hisako Kimura
by Hiroyuki Yamamoto (山本浩幸)
on 15th Oct. 2013

 

【必読】人気トップ3のコラム

新着のコラム

おすすめ新着記事