ミチルのひとりごと 仕事と子育てを両立させるお父さん

ウクライナの大統領ゼレンスキー氏が、さらなる支援を要請するため、英国、フランスに続き、EU本部のあるベルギーを訪問した日の朝、ブリュッセルの気温は、氷点下一度の寒さだった。

午前7時半頃、アパートの自宅を出ようと私がドアを開けると、玄関ホールから大きな子供の叫び声が聞こえてきた。

なんだろうと思いながら、階段を降りて行くと、自転車を押した40代くらいの男性と7歳くらいの男の子が建物入口のロビーにいる。彼らは同じアパートの住人で、時々顔を合わせる親子だ。

たしか、お母さんは中国系だ。だから坊やもお母さんに似たのか、中国人的な顔立ちをしている。彼は真っ赤に泣き腫らした目をして、お父さんをにらんでいる。

何が問題なのかは、まったく分からないが、その場を少しでも和ませようと、とりあえずボンジュールと朝の挨拶をする私。

父親は、うるさくてごめんねと、私に向かって謝る。子供にも、おはようと声をかけると、流石に子供といえど、赤の他人の前で駄々をこねるのは恥ずかしいと思ったのか、ごく小さく消え入りそうな声で、おはようと返してくれた。

彼ら二人はアパートを出た後、広い通りの反対側へ横断歩道を渡る。お父さんは、なんとか我が子をなだめすかし、ようやく彼を自転車の後ろに乗せて走り出した。それでも男の子は、お父さんの背中を両手でどんどん叩いて喚き続けている。やがて、二人の自転車姿はどんどん小さくなって、私の視界から見えなくなった。

いつもはおとなしそうな子供があれだけ激しく泣き叫んでいたのだから、あの子にとって泣かざるを得ない重要な出来事があったのかもしれない。

しかし、お父さんは我慢強く、手をあげるでもなく、声を荒げることもなく、言葉で諭し、学校へ連れていった。朝の忙しい時、おそらくあのお父さんは、自転車に乗せた子供を学校に送っていった後、それから自分の勤務先に向かうのだ。

つい最近、こんな日本人男性の相談記事を見つけた。

「妻の忙しいときや頼まれた時はいつも、子供の面倒を見てあげている。ゴミ出しや掃除など家事も出来る限り手伝っている。正直、他の男性に比べたら、自分はずっと育児サポートをしているのに、妻に感謝されない。何が不満なのかも分からない。

それに対しての回答が、秀逸だった。

「奥さんも外で働いているのに、子供の子育てと家事に関して、それは女性の仕事であって、自分の仕事ではなく、奥さんが大変なときだけ手伝う、という意識でいるように見受けられます。奥さんにとってはそれが不満なのではないでしょうか?もっと主体性を持って積極的に子育てに参加されてはいかがですか?」

私の勝手な感覚で申し訳ないが、子育てと家事は女性の仕事だと考えている日本人の男性は少なくない気がする。

朝の出来事が忘れられなくて、私の父はどうだったかなと遠い昔に思いを馳せる。

母が嫁入り道具に持ってきた三面鏡の前に、4歳の私と父が二人並んで立っている。

幼稚園児の小さな私は、黄色い帽子を被り、白い大きなボタンの4つ付いた紺色の制服姿。背の高い父は、同じく濃紺のスーツに身を包み、鏡に向かって赤いネクタイを締めている最中だ。

父も毎朝、娘の私を幼稚園まで車で送り届けてくれていた。悪童だった私のことだ、あの男の子のように泣き叫び、駄々をこねた朝もあっただろう。

男性の育休なんて存在しない時代に、私の父に限っていえば、専業主婦の母に任せきりにすることなく、一緒に私を育ててくれた。仕事で忙しい人だったが、可能な限り時間の調整をして、運動会やお遊戯会といった子供の行事に参加してくれた。

「パパの子でよかった」と心からそう感謝している。

その愛する父が亡くなって早十年。生きていれば、魚座の父は3月が誕生日だった。

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