アンリ・プリヴァ=リヴモン「ベルギーのミュシャ」?

19世紀末のブリュッセルに「ベルギーのミュシャ」として知られる画家がいる。アンリ・プリヴァ=リヴモン Henri Privat-Livemont。

ミュシャは優美なアールヌーヴォーの女性像で日本でも大人気だが、リヴモンは本国ベルギーでも一般に認知度が高いとは言えない。その理由は「性格が悪かったから」とは、骨董ポスター専門店のマダムの毒舌批評だが、いつも印刷の出来に不満で衝突ばかりしていたらしい。性格円満のミュシャが多作なのに対してリヴモンのポスターの数は少ない。100年前も今も印刷は難しいものだと思わず画家に同情してしまう。

さて、リヴモンは1861年10月9日にブリュッセルのスカールベーク地区に生まれ、子供の頃から芸術を学んだ。成績優秀でパリで学ぶ奨学金を得る。1883年にパリに居を移し装飾的な絵画を手がける。パリ市庁舎の装飾にも参加したようだ。1889年にスカールベークに戻り、地元の工業学校で「デッサン、装飾、彫像」の先生の地位を得る。同時にポスターや新聞、壁画など創作活動も続ける。1900年からスグラッフィート(漆喰による壁の装飾)を手がけるようになり、彼の作品は邸宅や学校(École Josaphat)など街なかで見ることもできる。

ブリュッセルに観光で来てあまり時間がない方でも、街の中心部には「白の大きな家」Grande Maison de Blancという建物が残っているので、ぜひ足を運んでいただきたい。(住所:Rue du Marché aux Poulet 32-34, 1000 Bruxelles)KABUKIという鉄板焼レストランやカジノが入っている建物の上部に、リヴモンが原画を描き、Royal Bochというベルギーの陶磁器メーカーがタイルに仕立てた絵がついている。頭上にあるので知らずに通り過ぎてしまう。地上階は面影ゼロだが、昔は(その名の通り白い)レースや下着類を売っていたお店である。

それから、普段一般公開していないが、建築家ポール・サントノワ Paul Saintenoy (楽器博物館を設計した人物)の家に、リヴモン原画のステンドグラスが残されている。葛飾北斎を思わせる海の波と、女性の美しい横顔が印象的な作品でアールヌーヴォーの写真集には必ずといっていいほど登場する。

というわけで、ブリュッセルのアールヌーヴォー絵画では重要な位置を占めるリヴモンだが、ミュシャの作風をただ真似して人気を博したのか、それともリヴモン独自の個性がなにかしらあるのか、そこが難しい問題である。リヴモンは背景をより抽象的にさらっと処理しているようにも見えるが、それならばミュシャにも多数作例がある。リブモンの何たるかを見極めるまで、もう少し時間がかかりそうだ。11.apr.2016

リヴモンのリトグラフのポスターは4000ユーロ前後。残念ながら肉筆の絵はほとんど残されていない。

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