ミチルのひとりごと プーチンのお買い物

ロシアがウクライナへの攻撃を開始して16日目。連日痛ましいニュースが報道されている。2年かけてコロナがようやく収まりつつあると思ったら、次は戦争である。それもかなり危ない。どこか遠いアフリカや、中近東の紛争ではない。ヨーロッパ大陸での戦争である。

昨日は、あろうことか市民のいる病院や民家に攻撃があったとの報道があった。お腹の大きな妊婦さんが、血まみれになって病院の階段を逃げ降りている写真が掲載されていて、なんとも痛ましい気持ちになる。こんな状況下で、彼女は安全に赤ちゃんを産むことができるのだろうか。

 

夕方、スーパーマーケットに買い物に行く。パン売り場にいるときだった。ふと顔を上げると、なんとプーチンが私の横で買い物をしているではないか。

え? 真っ青な鋭い眼光。薄い頭。仕立ての良い濃紺のスーツを着て、ネクタイまで締めている。手には買い物かご。

「プーチン! こんなところで呑気にパンなんて買ってる場合じゃないでしょう? さっさと戦争を止めると宣言しなさいよ。あなたのせいで、世界がめちゃくちゃになっているじゃないか。こんなにみんなが困っているんだよ。分かっているの?」

思わず声をあげて、胸ぐらを掴んで怒りそうになる。でも、よく見ると違う。似てはいるが、おじさんはプーチンではない。

 

当たり前だ。EUの主要機関をはじめ、NATO本部もSWIFT本部もあるベルギーに、彼が今いるはずがないではないか。

そうだ、思い出した。このスーパーのすぐ近くにロシア大使館があるため、このあたりはロシア人が多く住んでいるのだ。もしかすると、プーチンのような見かけのロシア人は少なくないのかもしれない。

しかし、ロシア人もいい迷惑だろう。誰かが言っていたが、プーチン=ロシアではないのだ。みんなが彼と同じ考えを持っているわけではない。

 

それにしても、ロシアの報道規制には、びっくりする。ロシアのウクライナ侵攻のほんの数日前に、ある米国企業が主催したウェビナーに参加した。タイトルは確か「今後のウクライナ情勢について専門家に聞く」みたいな感じだったと記憶している。

世界中から聴衆が集まっていたらしく、なかなか面白い質問がいくつも活発に出ていた。

 

 「先生、プーチンはいったい何を考えているのですか?」

 「それは、君、私もプーチンではないから、彼の脳みその中身を確認できるような立場にない限り、まったく分からないね」

 「次の質問は?」

 「あのー、私はロシア人で、ロシアから参加しているのですが・・・。今日のお話を聞いて、とてもびっくりしました。

ロシアでは西側諸国がフェイクニュースやデマを流しているので信じてはいけないと言われています。

でも、御社のような大企業の専門家が、ロシアのウクライナ侵攻の準備についてまるで真実であるかのようにお話しされていて、あの~、本当なんでしょうか?

私は、もう何を信じたらいいのか分からないんです」

 

残念ながらウェビナーだから、他の参加者たちの表情は見えない。しかし、その場の雰囲気が一瞬凍りついたような気がした。

 

 

早く戦争をやめてほしい。それは誰しも共通の願いである。でもそれなら、なぜすぐに降伏せず、流血しても戦い続けるのか。

それは、ウクライナの多くの人々が、独裁者による圧政ではなく、自由と民主主義による政治を求めているからだ。

少しでも政府の批判をしたと分かれば、刑務所に入れられ、拷問を受けるとなれば、余程の勇気と正義感と使命感と覚悟がない限り、普通の人は、何も言えなく、言わなくなるだろう。

 

表現の自由がどれだけ貴く、素晴らしい価値のあることであるか。それを守るために、我々は、戦わなければいけないのかもしれない。一刻も早く、停戦合意がなされることを真に祈りつつ。

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