手仕事が美味を生む「北海のグレーの小えび」 Crevettes Grises / Grijze Garnalen

手仕事が美味を生む「北海のグレーの小えび」 Crevettes Grises / Grijze Garnalen

ベルギーの北海で獲れるグレーの小エビは、ワインに例えるなら銘醸ワインのグラン・クリュ。前夜の水揚げが、朝には魚市場に届きます。

この小エビは一年中捕獲できますが、8月から11月にかけてが特に美味しく、「北海のキャビア」と称されます。

オステンドやニューポートに行ったら、アイスボックス持参で、是非朝市や魚屋にお出かけください。その新鮮さと美味しさにびっくりすることでしょう。

クレヴェット・グリーズは「灰色の小エビ」という意味

学術的には「Crangon crangon」というのがこの小エビの名称。しかし一般的には「Crevettes Grises=グレーの小エビ」と称される。

愉快なことに、このフランス語の呼び方は、雌の子ヤギを意味するフランス語の「Chevrette」から来ている。なぜなら、この小エビが砂地をピョンピョン移動する姿が、まるで子ヤギのそれと同じだからだ。この小エビのことを雄ヤギ、またはバッタと呼んでいる地方もある。

ちなみに、オランダ語では「Grijze Galnalen=グレーのエビ」と呼ばれ、「子ヤギ」のイメージはない。

グレーの小エビは十脚類に属し、体長は5~6センチと小さいが、伊勢海老やオマール、テナガエビの仲間で、平べったい体型をしている。

砂地に生息しているため保護色のグレーがかった半透明の色をしているので「グレーの小エビ」と呼ばれるが、生息している場所により薄い茶色にもなる。

その行動は光と潮の満ち引きに左右され、日中や引き潮のときは水辺の砂の中に隠れ、夜間に活動し、海藻やプランクトンまたは微小動物を餌にしている。


小エビといってもピンキリあり。その差は?

グレーの小エビは、ベルギー、オランダ、イギリス、ドイツ、そしてデンマークやバルト海岸沿いの砂地に生息している。

だから特にベルギーだけの名産ということはない。しかしベルギー産が美味しいわけは、冷凍保存もせず保存剤も使っていないからだ。

小型トロール船は、ベルギー海岸線から5キロ以内の範囲で小エビを捕獲。直ぐに船上で加熱する(そのため売られているものはピンク色をしている)。水揚げされた小エビは、グラグラ煮立った120リットルの海水入りの大鍋で30秒間茹でたあと、大きなザルに広げて冷却する。

このため、ツヤツヤと輝く殻と締まった身の小エビが、翌日の朝には手に入る。

他国ではどうやって捕獲しているのだろうか?

オランダを例にとると、大型トロール船は海に出ると少なくとも1週間は戻ってこない。このことから推測すると、保存剤の使用や冷凍などは否定しがたい。また、ある国の船は捕獲したものを労働力の安いモロッコに運び、そこで殻をむく処理をしてから、積んで帰って来るとも聞く。モロッコまでバカンスに行った小エビが、ベルギー産のものに比べ、味も風味も劣るのは至極当然といえる。

もう一つベルギー産の特徴を挙げると、鮮度だけでなく、人の手で殻をむいたものが入手できることだ。「épluché à la main=手でむいた」と表示されているものは、殻むきの達人(主に女性)が、驚くべきスピードであの小さいエビの殻をむいたもの。

むいた身の横に、優に3倍はある殻の山を見たとき、その忍耐に恐れ入ったものだ。

馬に引かれて小エビ獲り

小エビを実際に獲っているところを見たければ、北海の町Oostduinkerkeに行くとよい。

毎年4月から9月末まで(*)、昔ながらに馬に乗っての小エビ獲りが海岸で行われる。

大きな引き綱をつけた何頭もの馬がダイナミックにジャブジャブと海に入って行く様は、豪快な夏の風物詩である。

それを操る漁師は、伝統芸を伝えていくことに燃えるボランティアの海の男たちだ。

漁が終わると獲ったばかりの小エビを海岸で茹でて振舞ってくれる。茹でたての小エビを殻つきのまま頭から丸ごと食べよう。旨みがギュッと詰まったコクがある味わいに、この小エビの実力を確認すること間違いなしだ。

もし自分で獲ってみたければ、引き潮が止まった静かな頃で満ち潮が始まる直前を狙い、波打ち際に沿って、網を引きながら海岸を歩けば簡単に獲れる。

(*)実演の時間と日程は、潮の引く時間によって変わるので、Koksijde-Oostduinkerke地方の観光案内を参照。

グレーの小エビ アボカド詰め。アボカドの中には驚くほどたくさんの小エビが詰めてある。

料理方法

小エビの代表的な料理はトマト詰め(Tomate aux Crevettes Grises)。小エビをマヨネーズなどで和えて、中をくり抜いたトマトに詰めたものだ。

以前日本人シェフが日本のテレビで、ベルギー料理としてこれを紹介していた。グレーの小エビの代わりに日本産の小さなエビを使っていた。それも美味しいだろうとは思うが、ベルギーで食べるものとは同じ味ではないはず。なぜならこの小エビの味は他のエビでは絶対代用できないからだ。

食材が良いのであまり手を加えないものが適している。単純にレモンを絞りかけ、噛みしめると味のある穀物入りのパンと一緒に楽しむのが良い(白いパンではパンが負ける)。温製としてはコロッケが有名。

日本人にお勧めは天ぷら。小さいエビがしっかりと濃厚な味を出すことに驚くことだろう。


文・写真 ボナペティオンライン

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