Saison Dupont セゾン 真夏の畑で渇きを癒す

Saison Dupont セゾン 真夏の畑で渇きを癒す

セゾン。

フランス語で「季節」を表す。Saisonと綴る。

世界共通の概念で季節といえば春、夏、秋、冬と4つあるのが基本だとして、ビールの世界でセゾンといえば「夏」である。

いや、冬にあったかい鍋をつつきながら、冷えたビールをキュッといくのがたまないね、という人には申し訳ないが、セゾン・ビールはベルギーの夏の代名詞で決まりだ。

銘柄はいくつもあるが、流通している量と安定した品質を考えると、まずはデュポン社のセゾンをお試しいただきたい。

全体のイメージとして高アルコールで力強い印象のあるベルギービールの中で、セゾンの持つ軽やかな口当たりは独特なものがある。デュポン社のものは6.5%。

歴史を紐解くと、19世紀中頃、夏の間に肉体労働で集められる季節労働者たち(セゾニエール saisoniers)に供せられたという。このセゾン・タイプが生まれたのはベルギー西部のエノー州だ。Hainautと書く。かつては石炭掘りや鉄鉱業、機械生産が盛んで、労働力がたくさん必要だった。

そのあたりの農家では冬の間に自家製の麦からビールを作り、夏になるとそれを働き手に提供した。暑い太陽の下で大量の汗をかき、のどを乾かせた男たち、女たちが、休憩時間に木陰で涼みながらビールを飲んだという。

もしかしたら・・・いや、多分、私の想像はおおよそ当たっていると思う。19世紀に炭鉱や鉄工所で働く労働者たちは、相当に過酷な状況に追いやられていたのではないか。死にそうになるまで、いや、死ぬまで働かせられたのだろう。

故郷を離れた見知らぬ土地で、苦しみ、傷つき、、、唯一のなぐさめがこのビール。

現代の私は呑気なものだ。そんなセゾンの匂いをくんくん嗅ぐと、なぜだか農場の干し草や、木陰を吹き渡る風の匂いが感じられる。セゾン専用の酵母というものが存在するようで、見た目は淡いゴールドのいかにも普通のビールのようでいて、かすかだが確かに個性的な味わい。

ベルギービールもさまざま飲み尽くした「通」が、何周も走り回ったあと最後の最後にたどり着く、やさしい桃源郷のような飲みごこちがする。19世紀の季節労働者たちの汗と涙に思いをはせながら、乾杯。

 

地元のベルギー人家庭に残されていた伝票

貴重な資料画像をご提供いただきました! セゾンビールを樽ごと仕入れたときの伝票や領収書です。

これらは、残念ながら現存しない醸造所のもの。
第二次世界大戦の影響で、ベルギーの醸造所にあった金属製の醸造機器は、軍隊が接収してしまった。設備がなければ廃業せざるをえない。多くのメーカーがなくなってしまうなか、デュポンは戦後に銅釜を再購入し、それが今も「現役」として活躍しているという。

written by Tyltyl

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