【ミチルのひとりごと】お子様(だけ)ランチ

先日ミディ駅の近くに行く用事があった。ランチタイムになり、アラブ人が経営している美味しい魚介類のレストランが並ぶスターリングラード通りに入ると、なぜか、ほとんどの店にシャッターが下りている。土曜日なのにどうしたのだろう?と考えて、ようやく気がついた。そうだった、今年は、もうラマダンに入っているのだ。

道理で、いつもはアラブの男性たちでごった返している界隈が、やけに寂しいわけだ。レストランの椅子に座って話しこんでいるアラブ人の男性たちも、よく見るとテーブルの上には何もない。夜の10時になるまで、水も飲めないのだから、当然だろう。お腹がすいた私は、しかたなく駅前のファーストフードショップで空腹を満たすことにした。幸いここは開いているようだ。中に入ると、アラブ人の子供連れの家族が何組か座っている。アラブ系だけれど、実はイスラム教徒ではないのだろうか? など考えつつ、彼らをよく見て、はっとした。

ラマダンにはいくつかの決まりがある。絶対に誰もが断食しないといけないわけではない。妊婦、病人、幼い子供など、は除外される対象として認められている。実はそのファーストフードショップにいるのは、家族といっても、お父さんに連れられた男の子たちだけ、そして、食事をしているのは、その幼い子供たちだけなのだ。父親は自分の子供が食べるのを見ているだけだ。

二人の息子を連れたお父さんは、下の息子に「お父さん食べないの?」と言わんばかりに、鼻先にフライドポテトを突きつけられて、「こら、さっさと食わんか!」と怒っている。

暑いし、喉は乾くわ、お腹は空くわ、でも息子たちが食べているのを指をくわえて見ているしかないのはきつい。道理で、土曜日の家族連れのファーストフード店のなか、通常楽しいはずの時間なのに、なんだか空気が淀んですっきりしない、それはラマダンを遂行している父親たちから醸し出されるイライラのせいだったのかもしれない。

中近東諸国と違い、ベルギーにいるイスラム教徒たちは、異教徒にまでラマダンを強いたりしないから、アジア人の私は断食する義務はない。しかし彼らに囲まれていると、やはり、なんだか肩身が狭い。私オトナですけど、ラマダンの時期だって気づいてしまいましたけど、ごめんなさい、食べちゃいます、みたいな。

 

私が今年のラマダンの日程について知ったのは、ついこの間である。

先日、会社のイベントとして催されたバーべキューパーティに、ある同僚が参加していないので、不思議に思って聞いてみたところ、

「だって、ラマダンだもの」との答え。いつもは敬虔なイスラム教徒に見えない彼も、ラマダンは真面目に守るようだ。それにしても、パーティ好きなのに自分は飲み食いできない、そのうえ他の人たちが楽しんでいるなんて、これ以上に残酷な拷問もあるまい。

日本にいる時はラマダンなんて気にすることもなかったけれど、異文化の混在するベルギーでは、彼らの神聖な習慣を理解し、尊重することも求められるのである。

29.jun.2015

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