ミチルのひとりごと WELCOME to BELGIUM!

現在、ベルギーではいくつかのフェーズに沿って、徐々にCOVID-19の規制緩和が進んでいる。とは言っても、コロナ・ウイルスのワクチンが開発されて安泰というわけではないため、1.5m 間隔をあけるソーシャル・ディスタンスや、マスク着用の奨励はこれまで通りで、お店がポツポツと開きはじめた以外、そんなに変化の感じられない日曜日。


もう警察に止められる心配はない、と100%確信できないけれども、アールヌーヴォーの地図を片手に名建築巡りをすることにした。おっかなびっくりながら、家から少し離れたサンカントネール公園まで車で行き、近くの住宅地を歩いていたら、ガイドの地図上には記載されていないけれど、明らかにアールヌーヴォー様式の素敵なアパルトマンを発見。

アールヌーヴォー建築が好きで、見ているだけで幸せになれる私は、その建物をうっとりとしばらく反対側の通りから眺めていた。すると、何かの配達のためだろう、後ろに荷台をつけた自転車がその白い建物の前に止まった。

自転車に乗って配達に来ていたのは、サングラスをかけた、少し色の浅黒い青年だ。薄いブルーの会社のロゴが入ったような上下お揃いのユニフォームらしきものを着ている。

ドアから若い金髪の青年が出て来た。ヨレヨレしたタンクトップに短パンで、特に裕福そうでもない、本当に言い方は悪いが、ヨーロッパならどこにでもいそうな、ごくごく普通の男性。

配達の受け渡しを、見るとはなしに見ていると、私の視線を感じたのだろうか、配達が終わり、自転車に再度またがったデリバリーの青年が、私の方を向いてこう叫んだ。

ハーイ! WELCOME to BELGIUM!


それは、本当に突然で、彼はすぐに自転車で走り去ってしまったので、ミチルはとっさにありがとうと返すこともできなかったが、温かく心にしみる出来事であった。


なぜこの一言に、そんなにまで感動したのか。きっと彼の目には私がアジアからやって来た観光客に見えたのだろうと思うが、コロナ・ウイルスが問題になっているこの時期、外国からの観光客なんて、まったく歓迎されていない状況にもかかわらず、彼が気持ちの余裕を持って「ベルギーにようこそ」と言ってくれたことが、とても嬉しかったのだと思う。

コロナに感染する危険をおかしながらも、日曜日にエッセンシャル・ワーカーとして働いているのは大変なことなのに、ベルギーの人々はやっぱり優しいと、とても心が癒された感じがした。


そしてこのことは、友人たちから最近よく訊ねられる、ある質問を思い出させてくれた。


最近、日本ではオンライン飲み会が流行っている。私も日本にいる元同僚たちからお誘いを受けて参加することになり、ベルギーの事情に関して細かく質問攻めされた。彼女たちは、一つ一つのことに感心してくれて、こちらでは当たり前のことになっていることも、私にとっても再発見になり、嬉しい気持ちになった。


ところで、ミチル、そちらではあなたが外国人だから、差別されたり、嫌がらせされたりすることはないの? ほら、コロナって、中国からはじまったじゃない? 中国人と間違われたりして、嫌な思いすることない?


この手の質問を日本にいるいろんな人から受けるのだ。いや、実を言うと日本にいる人だけではない、英国にいる知り合いにまで同じ質問をされた。


え? 私は今のところ、そんなことはないけど・・・。ベルギーでは、そうね、あんまりそんな話聞かないけど・・・。どうして?


だって、日本だったら、最近外国に行っていて帰国しただけで、すごくバッシングされたり、差別されたり、すごいのよ。例えばね・・・


なんだか日本はギスギスしているらしい。英国でもアジア人が差別されているらしい。もちろん、ベルギーに差別がないとは言えないだろう。でも、ブリュッセルは特に、世界でも有数の国際都市だからということもあろうが、10年以上住んでいるのに、ミチルはありがたいことに嫌な思いをしたことはほとんどない。


ベルギーが好きなことの理由の一つが、外国人であるにもかかわらず、受け入れてくれる懐の大きさ、この住み心地の良さ、差別意識のなさ、つまり文化度の高さが、デリバリーのお兄さんの「ベルギーにようこそ」に象徴されると思う。


ここに長く住んでいるのに、英語でウェルカムと言われるなんて、きちんと同化していなくて外見が異邦人っぽいのかと、そこだけ微妙な気分にもなるけど、私は、みんなが笑顔で「ようこそ」と言ってくれる、そんなベルギーがやっぱり大好きである。

by Mytyl

【必読】人気トップ3のコラム

新着のコラム

おすすめ新着記事